- 著者:稲見 一良
- 『セント・メリーのリボン』 (光文社文庫)
5つの物語が収められた珠玉の短編集。
そのどれもが読了が派それぞれ違った光りではあるけれど輝き放つ余韻を与えてくれる。
それぞれのストーリーはとても短い。
けれど、そこに込められている想いは濃厚過ぎるぐらい濃厚だ。
“焚火”では最後は「これで終わり?」と思わせるラストで少々物足りない部分もあるけれど、無駄な贅肉を剃り落としたストイックな物語は、それだけにストレートに読む者に「生きろ」と呼びかけている著者の言葉のようだ。
“花見川の要塞”は一転して幻想的な物語。
年を経るごとに失っていく純粋なもの。
それを取り戻したいという願いが込められているのかよう。
“麦畑のミッション”ではもしかして悲しい話なのかと身構えて読み始めたけれど、予想とは違った劇的な展開が待ち受けていて感動的なラストに。
長編として描かれていても面白いのでは。
“終着駅”でも自分の予想とは全く違った展開を見せる。
夢を叶える為のチャンスが目の前にあったら、それがどのようなものでも掴み取ろうと自分ならするのだろうか。
思わず自問自答。
最後は表題作の“セント・メリーのリボン”
猟犬を探す事を専門にしている探偵が主人公。
ハードボイルドの王道を行くような物語。
無愛想だが心優しい探偵の生き様は実に格好いいし、作中の言葉のやり取りなんかは思わずニヤリとさせられること間違いなし。
ベタな展開を見せるが、ラストはやはり感動的でなぜか目頭が熱くなった。
5つの物語に込められているのはやはり“生きる”という事だろうか。
癌に侵され余命が短い事を知っていた著者が“生きる”こと、それもどのように“生きる”ことに憧れていたのか・・・。
ただ“生きる”のではなく、どのように“生きる”のか考えさせてくる作品集だ。