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テロリストのパラソル (講談社文庫)
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20年以上身を隠し続け、今は小さなバーで雇われ店長をしている島村は、多数の死傷者を出した公園での爆弾爆発事件に居合わせる。
その犠牲者の中にかつての友や恋人がいた事から、警察に追われながらも自ら犯人を捜し始める。
史上初の江戸川乱歩賞と直木賞のW受賞を果たした本作。
画像は文庫版のものですが、自分が持ってるのは単行本の初版。
先日、著者の藤原伊織氏が食道ガンとの闘病生活の末に亡くなられたので、追悼の意を込めて久しぶりに再読。
主人公の島村は、かつて全共闘の闘士。
その時の友と偶然起こしてしまったある事件をきっかけに、将来を嘱望されたボクサーとしての未来を捨てて身を隠す生活を20年以上送ってきた。
その体はアルコール漬けの毎日ですっかりアル中に。
だが、爆発事件をきっかけに出会った奇妙なヤクザの浅井、そしてかつて愛した女性の娘塔子と出会い、爆発事件が単なる偶然ではないと確信し過去に向き合う姿は、浅井や塔子が言うように今の時代では「骨董品」のよう。
だが、そうであるがゆえに島村の言動に共感をおぼえ、一緒になった真実を追い求めるべくページを捲る事を止められなくなる。
思わずニヤリとしてしまうような島村のセリフや、浅井や塔子をはじめとする魅力的なキャラクターと、スピード感溢れる展開で最初から最後まで一気に読みきってしまう。
印象的な場面はいくつもあるけれど、最も強く残るのは冒頭と病室での少女との会話だろう。
それが何より島村の時代遅れだけれども格好いい生き方を引き立てているように感じる。
ところで本書をこうやって久しぶりに読んだのは前回は10年近く前の事だと思う。
初めて読んだ時、そして2回目に読んだ時に比べると若干の物足りなさを感じるのは、スピード感あるような展開の早さが前は良かったのが、今は逆にもう少し丁寧に描いて欲しいと感じる部分のと、自分が主人公の島村と年がだいぶ近くなってきたせいなのかも知れない。
さて、著者の作品は我が家には他に2作品あるのでそちらも再読し、また、読んでない他の作品にも手を出して引き続き著者への追悼としていきたい。
