- 著者:福井 晴敏
- 『6ステイン』 (講談社文庫)
『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』で有名な福井晴敏初の短編集が文庫化。
著者の描く諜報の世界を舞台にした6つの物語が収められているのだが、いや、これが実に泣けるのだ。
泣けるからいいってもんではない。それは分かっている。
だけど、この作品集に収められている物語の“泣ける”感というのがなんとも言えずいいのだ。
あざとく泣かす演出を、とりたててしている訳ではないところがいい。
何故だか自分でも分からず胸のうちをキュウっとさせるような切なさが心地よい。
個人的には元治安情報局員で現在はサラリーマンとして成功し始めている中里が、かつてのミッションによって恨みをかった相手に狙われ逃亡、立ち向かう姿を描いた「いまできる最善のこと」と、冷戦時代のソ連に情報を流していた内通者が残した物を巡って、男女の深い愛と日本という国が抱える“不実”と同じく“不実”を自覚する主人公を描いた「畳算」が印象的でした。
そして忘れてはならないのは最後に収められている「920を待ちながら」。
これには『亡国のイージス』でお馴染の人気キャラクターが登場する。
短編というよりはその長さから中篇と言っていいぐらいのこの物語は、その見事な構成もあって読み応えあり。
なので『亡国のイージス』ファンも必読だ。
長大な物語では少々鼻につくぐらいの“甘さ”が感じ取られる著者の物語。
しかし短編という形を取っているせいか、その“甘さ”も控えめ。
そういった意味でも個人的には読みやすく、こういった短めの話ももっと著者に描いて欲しいと思いましたね。