- 著者:ロブ・ライアン 訳:鈴木 恵
- 『暁への疾走』 (文春文庫)
第二次世界大戦前、画家のお抱え運転士をしているウィリアムズは、その画家の愛人であるイブと関係を持つ事によりクビになる。
しかし見事な腕前でブガッティを操るウィリアムズは、伝説的なレーサー、ロベール・ブノワと共にレースの世界で活躍する事に。
だがドイツ軍のフランス侵略が本格的になると、ウィリアムズは何かせずにいられないと、母国であるイギリスに戻り諜報部で訓練を受ける事になる。
訓練を終えて情報部の密名を帯びて、再びフランスに舞い戻ったウィリアムズはレジスタンス活動を始めるのだが・・・。
名車ブガッティをその天才的な腕前で操り、エキゾーストと土煙を撒き散らし、ドイツ軍と相手に縦横無尽の活躍を見せる・・・そんな痛快冒険小説が展開されるのかと思いきや、その期待は思い切り裏切られた。
ブガッティが活躍する場面はそんなに多くなく、レジスタンス活動などの描写もブガッティ共々少なめで、物語的には正直言って盛り上がりに欠けているかも。
だが、侵略下のフランスの様子、レジスタンス活動、またドイツ軍の行った行為の生々しさがよく伝わってき、当時の情景が目に浮かぶ様子は読み応え十分。
また、主人公であるウィリアムズやその妻イブ、そしてロベール・ブノワといった実在した人物達の造形が実に魅力的なので、その点がなんというか物語に花を添えているといった感じがした。
特にイブ。
彼女がなんとも魅力的だ。
画家の愛人という登場の仕方から、なんとなく奔放なイメージを抱いて読み始めたが、ウィリアムズを想い続ける愛の深さは感動的であり、またそのイブを愛するウィリアムズも実に男らしいではないか。
また、ウィリアムズとブノワの男同士の友情と信頼も読んでて実に心地いい。
レジスタンス活動を行う後半部で大きな盛り上がりを見せてくれると、実に魅力的な冒険小説に仕上がったと思うのが惜しいところ。
しかし、著者の狙いはそこにあるのではなく、あくまで実在した人物や史実を元に作り上げられた、冒険小説的な伝奇小説にあったのかも知れない。。。