- 著者:米澤 穂信
- 『夏期限定トロピカルパフェ事件』 (創元推理文庫)
高校2年生の夏。
一緒に過ごす時間が殆どなくなってきた小鳩君と小山内さん。
しかし夏休み、小鳩君に小山内さんが渡したものは一枚の地図と<小山内スイーツ・コレクション・夏>と銘うった、小山内さんが選りすぐった街中のケーキ屋さんと、そのお店で食べるスイーツのリストで、小山内さんは小鳩くんに一緒にこのコレクションを制覇して欲しいとお願い。
一緒にケーキ屋さんを回る事に楽しみを感じつつも、互いに小市民たるように助けあうのは基本的に学校内での事としているのに、夏休みの間中一緒に過ごすという事に小鳩君は何か違和感を抱く・・・。
前作『春期限定いちごタルト事件 』よりも格段に面白さはパワーアップ。
前作同様、一つ一つの短編の中でちょっとした謎解きを小鳩くんがしていくというスタイルだが、今回はそれがすべて一つの話に繋がっていて長編ミステリと成している。
甘いものがそれほど好きではない小鳩くんが毎回食べるハメになるスイーツの数々は実に美味しそう。
そして夏休みといえば、なんとも甘酸っぱい匂いがするもの・・・。
しかし最後には、前回のラストに垣間見せた小山内さんの“狼”としての本性がより露わにされ、甘い空気が全編に漂っていた分、余計に読了後に口の中に苦味が広がる。
『秋期限定』『冬期限定』と繋がるであろうこの先の物語が、いったいどのようなものになるのか、楽しみでもあり、また怖いようでもある。
ところで個人的には今回の中では探偵役であるはずの小鳩くんが逆に犯人になり、小山内さんと対決する物語「シャルロットだけはぼくのもの」がお気に入り。
甘党ではないにも関わらず、目の前にあるスイーツの欲望を抑えきれなくなる小鳩くんの気持ちは、自分は甘党であるだけに余計に分かる(笑)。
そして証拠隠滅した小鳩くんと小山内さんの行き詰る対決は緊張感あり、読み応えじゅうぶんでした。