- 著者:荻原 浩
- 『なかよし小鳩組』 (集英社文庫)
倒産寸前のユニバーサル広告社に舞い込んできた大仕事。
それは「小鳩組」という、いわゆるヤクザからで、なんと組のイメージアップ戦略といもうの。
杉山は会社も自分も生き残る為に仕事を進めるが、そんな杉山の元には別れた妻が引き取っていた小学生の娘が転がり込んできて・・・。
デビュー作である『オロロ畑でつかまえて』の続編で(感想はこちら ) 、前回と同じユニバーサル広告社の面々に、「小鳩組」のヤクザさん達などを加えたユーモア小説。
だが、その後の荻原浩に通じる“ほんのり泣ける”要素が加わっており、ラストはちょっと切なさも感じる。
もちろんドタバタコメディとして全編を通じて読める。
「小鳩組」のブレーンである鷺沢が押し付けてくる難題をいかにクリアしていくのかも見物だ。
また、ヤクザとはいえ人間味あふれる河田などとのやりとりも面白い。
だが、今回最も注目してしまうのはやはり杉山と娘の早苗とのやりとりだろう。
アル中寸前の杉山も、別れた妻が乳がんの手術をする事になり、父親として男として前を見つめて歩き出そうとする姿勢には思わず共感をおぼえる。
思わず「とうちゃんがんばれ!」と早苗と一緒になって応援したくなるだろう。
前回よりも人情味溢れる作品となっており、読み応えもアップしてはいるが少し残念な点もある。
「小鳩組」の押し付けてきた難題をクリアする為の起死回生のアイデアは面白いが、前回ほどの爽快感が得られなかった点。
杉山と早苗、そして別れた妻と新しい旦那との関係を描く部分と「小鳩組」を相手取って奮闘する部分とのバランスが若干悪い点。
もう少し「小鳩組」の面々にもスポットを当ててくれると、楽しさと切なさが倍増するような読後感が得られたかも。
しかし、読み終えるとまた彼等と会いたいと思わされる。
数年後の設定でユニバーサル広告社の面々と杉山と早苗の物語が読んでみたいものである。