- 著者:樋口 有介
- 『月への梯子』 (文藝春秋)
40を過ぎても自分の事を「ボク」と呼んでいるアパートの管理人の福田は、まわりの人間からは“ボクさん”と呼ばれている。
子供の頃に高熱を出して、脳の発達が人よりも遅れている“ボクさん”にとってまわりの人間は誰もがいい人に見えていた。
そんな“ボクさん”が管理しているアパートの外壁の塗装作業中に、住人である女性が何者かによって殺されているのを発見。
その時、梯子から落ちたショックで“ボクさん”にある異変が起きる・・・。
なんとも感想を書きにくい作品だ。
紛れも無く樋口有介の作品だが、これまでとちょっと一味違う作品でもある。
知的障害の主人公“ボクさん”が梯子から落ちたショックで突然頭の回転が速くなり、今までのボクさんとは違った人間に変貌する、言ってみれば「樋口有介版“アルジャーノンに花束を”」な物語・・・・・・になるのかと思いきや、ラストは予想もしなかった方向へ。
それはある意味ファンタジーのような、それともSFのような物語に。
樋口さんの作品に共通する“切なさ”は今回も健在。
いや、より“切なさ”が強まってるかも。
読了した時に感じる“切なさ”は、なんともやり切れないように感じるか、それともある種の救いを見い出せるのか、読者によって抱く感想はまちまちかも。
主人公のボクさんは、梯子から落ちたショックで今まで見えていなかった世界が見えるようになり、知らずに済んできた事を知る事によって、ボクさんにとって幸せだった世界が変貌する。
それが「不幸」であるかどうか・・・。
知らずにいれば、ただ幸せな世界で暮らせたかも知れないけど、知った事で不幸になる訳ではなく、知った事を自分の中できちんと消化する事で新たな幸せを掴む事が出来るはず。
最後に読者に突きつけられる「真実」を我々読者はどう消化するのか。
著者はその反応を楽しみにしているかも。