- 著者:須藤 靖貴
- 『フルスウィング』 (小学館文庫)
速球で鳴らすも八年間所属したチームを解雇され、別のチームでバッティング投手をする事になった玉村謙太郎は、現役時代にさえしなかった日頃の鍛錬をかかさず打者に「いい球」を投げる毎日を送っていた。
そんな彼に訪れた転機などを描いた全六編の“野球”に関する短編集。
「野球は好きですか?」
収められた6編の物語は、純粋な野球に関する物語から、ちょっとしたミステリや恋愛ものまで様々。
1話目の『ビリケン打撃投手』は、花形だった投手が、傲慢で野球に対して真摯に打ち込んでこなっかた自分を見詰め直す、自己再生の物語。
そんな彼が、かつては蔑んでいた父親を誇りに思うように、最後に言うセリフが胸を打つ。
2話目の『ビーンボール』は、日本で活躍する二人の外国人選手が画策する犯罪物語で、1話目のストレートな野球小説から考えると、タイトル通りビーンボールを投げられたかのように思える作品。
3話目も『56号』は、偉大なる打者が打ち立てた記録を、外国人打者が打ち破ろうとする時に起こる問題を皮肉ったような物語だが、そこに一ひねり加えられているところが面白い。
4話目の『リリーズ・チョイス』は、自分が認めなかった選手が、メジャーにまで行き活躍するようになり、世間から白い目で見られる事になった元監督の物語。
5話目の『ぐでんぐでん』は、一人の女性を巡って賭けをした大学野球の二人のエースの物語で、野球を通じて信頼し合う様と恋の行方が爽やかに描かれているが、そのオチに関しては先に読めてしまったのが少々残念だったかな。
6話目の『さよならのチャンス』は、12年間頑張ってきたが解雇され、故郷に戻ってきた投手の物語で、受け取った恩師からの手紙と、初恋の人との再会を通じ、気力を失いかけていた主人公が再びスタートしようとする様子が、初恋の人との思い出が印象を残して爽やかに描かれている。
「野球は好きですか?」
とにかく野球が好きなら、まず無条件で楽しめる一冊だ。
個人的には1話目と6話目が特にお気に入りです。