鳥取県弁護士会が2日に鳥取市で開いた安保法案反対県民大集会にメーンスピーカーとして招かれた憲法学者の小林節慶応大学名誉教授が、日本海新聞のインタビューに応じ、安保法案の行方や参院の合区問題などについて語った。
ー参院での安保法案審議のポイントは?
衆院では安保法案の違憲性を含めて拡大解釈の問題など論点はすべて出たが、政府は逃げてばかりで論議は噛み合わなかった。衆院と参院は別の法人格だ。参院では改めて一から違憲性、拡大解釈、危険性の問題を繰り返し審議すべきだ。しかし、安全保障担当の首相補佐官が、集団的自衛権行使を考える際に法的安定性は無関係と言った。法治国家では国家権力で国民の自由が制約される。どういうルールで権力が行使されるのか明白でないと国民はおたおたする。法治国家、民主国家には法的安定性は不可欠だ。
ー参院審議で安倍首相は中国の軍事的脅威を強調している。
立法事実の変更だ。衆院では、中東で戦争が起きると日本が経済的に困るから米国を助けに行くというのが政府の立法事実の論理だった。ところがイランの大統領がそんなこと(ホルムズ海峡の封鎖)はしないと言った。そこで安倍首相は急に中国が攻めてくると言い出した。日米安保がある日本に中国は手を出せない。特別に危険が増している訳ではない。衆院で通した理屈が変更している。野党の突っ込みどころだ。
ー参院での審議の行方は?
参院はすべての党で党内少数野党だ。参院自民党は衆院のように言いなりではない。だが、自公は衆院で再可決してでも法案を通してくるだろう。それでも来年夏の衆院選で憲法改正を封じるため、今後も(集団的自衛権に対する)反対運動を維持していかなければならない。
ー自民党の勉強会によるメディアへの圧力など民主主義を否定する言動が目立つ。
政治家の劣化と言うが、知性と教養のない議員は勘違いで選民意識を持ち、違う意見を黙らせるためタブーを超えて攻撃してくる。メディアの責任は大きく、憲法違反だと明確に論理的批判をしなければならない。国民も自分たちが侮辱されていると怒るべきだ。
ー参院の選挙制度改革で鳥取・島根などが合区された。合区への見解を。
合区には反対だ。都道府県には歴史的ないきさつがあり、鳥取島根は似て非なるもの。松葉ガニとシジミぐらい違う。人口の少ない鳥取や島根を基準として1議席配分し、各都道府県の人口に応じて何倍かにすればよい。衆院は単純に人口比例だが、参院は都道府県単位で実施してきた。憲法に明記されていなくても、その延長線上に説得力はある。最高裁でも合区せよとはいっていない。
日本海新聞8月7日掲載
聞き手 日本海新聞論説委員長 森原昌人