ニュージーランド・自然と人と食べ物と。

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31Jan
- 今日でケーキ屋を閉店する叔父さん、叔母さんへ。
  おじさん、おばさんへ。30数年間、本当にお疲れさまでした。XX閉店のお知らせを機に改めて思い返してみると、XXのケーキは、私の子供時代の幸せな記憶と深く結びついていることに気づきました。小さい頃からクリスマスや家族の誕生日、大みそかなどの楽しい行事に必ず登場する存在だったからです。特にクリスマスケーキは、チョコレートが良いかクリームが良いか毎年、家族内で議論になりましたが、ケーキが届くとクリスマスを実感し、楽しい気分が盛り上がったことを覚えています。高校生の時、クリスマスの前に一度、お手伝いという名目のアルバイト？ケーキ作り体験をさせていただいたことがありました。いつも通り過ぎるだけのキッチンに立たせてもらってケーキを作る工程に関わることができたのは、私にとって新鮮で貴重な体験でした。たしかイチゴを挟んだり、クリームを塗る作業をさせていただいたと思いますが、要領が悪く、お忙しい中かえって色々ご迷惑をかけてしまいましたね。。大人になって日本を離れてからも、クリスマスや誕生日を迎えるときはよくXXのイチゴの乗ったホールケーキを思い出し、温かい気持ちになっていました。去年の暮れに母からブランデーケーキを一本、送ってもらいました。懐かしくて私が独り占めしてもよかったのですが、ちょうど数日後にクリスマスパーティがあったため、せっかくなら皆で一緒にいただこうと思い、食事会で切り分けて参加者の皆さんに食べていただきました。するとたくさんの方々がその芳醇な味と香りに感動・感激され、また食べたい、その場所に行ったら是非寄りたいと言ってくださいました。今は、クリスマスに幸せの味をたくさんの方に共有できたことをとても嬉しく、また誇りに思っています。長年の間、地元の方々に愛されてきたXX。XXのケーキは、これまで本当にたくさんの方々の楽しいひと時や幸せな時間に寄り添ってきたのだと思います。また、ケーキを通しておじさん、おばさんの優しさや丁寧さ、ケーキ作りに対する真摯な思いが伝わっていたのだと思います。これまで色々お忙しかったと思いますが、これからはどうか無理をせず、お大事になさってください。また、風邪などひかぬようどうかご自愛ください。距離は離れてはいますが、何か私にお手伝いできることがあれば教えてくださいね。最後に、美味しいケーキと優しいお心遣いを、いつもどうもありがとうございました。コロナが早く落ち着き、またお会いして色々お話できる日を楽しみにしています！2022年1月31日
04Apr
- ひもじくも温かいテカポ湖の夜
  朝一の飛行機でQueenstownへと飛び立った私たち家族一行。先ずはQueenstown空港付近の果物農家に行き、さくらんぼ狩りをすることにした。12月初旬。時期が少し早いため、摘めるさくらんぼの種類が少なかったが、青空の下、皆で味見しながら完熟さくらんぼを探す、それだけでも充分楽しめる。結局、ビニール袋ふた袋分を摘み取り、支払いを済ませた。少し酸っぱさが残るさくらんぼ。持ち帰ってコンポートやジャムにしたらちょうどいいかもしれない。その後は、車を走らせ、地元のマーケットやサーモン養殖場・カフェで休憩をしたり、マウント・クックを背景に撮影をしたりしながら、目的地のテカポ湖へ向かった。テカポ湖のMotelでチェックインを終わらせ、部屋に荷物を運び込むとすでに6時過ぎ。まだ空は明るい。早めの夕飯にしても良いが、道中、色々つまみながら来たため、皆、お腹は空いていない。父も母も、結構はしゃいでいたので疲れただろう。夕食は少し遅めにとることにし、それまで各自、部屋で少し休もうということになった。Motelの硬いベットに横たわるとウトウトしてきて、、小1時間ほど寝てしまっただろうか。二人も少し横になったようである。外に出るとちょうど夕焼け空が湖の上に広がり、涼しくなっていた。私たちは太陽が完全に沈むまで少し湖の周りを歩いた。ちょうど小腹も空いてきたことだし、何か食べてから星を観ようと、レストランが連なる通りへ。その内の一軒に入ってみたが、なんとすでにラストオーダーが終わっているという。まだ確か9時にもなってなかったはずである。気を取り直して二軒目。ここも、Close。その他のレストランも…！(レストラン街はどうやら、その通り一本だけ)。Motel内のレストランもちょうど営業終了したところとのこと。まさか、テカポに来て夕飯抜きになるとは、思ってもみなかった。予約はしなくても、せめてレストランの閉店時間くらいチェックしておけばよかった。テカポは星の観測値になるくらいだから、レストランなどの明かりで邪魔をしてしまわないよう、もしかしたら街(村？)全体で、閉店・消灯時間を早めているのかもしれない。。父と母に申し訳ない気持ちになった。遥々1日かけてやって来て、疲れているはずだし、食事も楽しみにしていたはずである。しかし、状況を理解した彼らは意外にも楽天的で、仕方ないねと笑っていた。Motelの部屋に戻ると、早速皆、各自持ち物から食べ物を捜索した。見つかったのは、家から持って来たカップヌードル一個とクラッカー、午後に行ったカフェからtake awayしたパイ一個、そしてさくらんぼ。ビール一缶。母はMotel備え付けの小さな椅子に、無料でもらって来たテカポ風景のポスターを敷いた。素敵な？即席テーブルに早変わり。クラッカーには昼間マーケットで買ったジャムをのせ、さくらんぼは洗ってグラスに盛り付け。カップヌードルに沸かしたお湯を注ぎ、待っている間、蓋にパイをのせて温める。テーブルに食べ物を並べて、周りに人数分椅子を揃えれば、ホラ、立派な食卓の出来上がり。父はビールがあればご機嫌である。さすがに裸電灯、ではないが暖色の明かりの下、レストランでの食事にありつけなかった失敗を笑いながら家族でいただいたテカポ湖での夕食。腹は満ちていないが、何故か心は満ちていた。今後、またテカポ湖に旅行に来た時も、この日のことを懐かしく思い出すのだろう。明日は早々に湖畔レストランに予約を入れて、お昼に皆で美味しいテカポ湖のサーモンを食べるのだ、、クラッカーをちびちび齧りながら、私はそれでも、サーモン丼への期待(とリベンジ)に胸躍らせるのであった。
10Feb
- 家族旅行とひと夏の思い出
  両親が12月にニュージーランドに遊びに来てから早2か月。その後、クリスマス、忘年会、正月、仕事始め、と時間は過ぎていき気が付けば2月ももう半ばに差し掛かる。約10日間と短い滞在だったが、南島、ロトルア、ハミルトン含め実にたくさんの場所を両親と一緒に旅行・観光し、たくさん話をした。考えてみれば、父母（二人共揃って）と旅行をしたのは中学生か高校生のとき以降だ、、ざっと20年間ぶりということになる。一緒に行動をする中で両親について初めて気づいた、知った面もたくさんあった。例えば、母はもうすぐ68歳になるのだが、何に対しても好奇心旺盛で、カフェに立ち寄るたびに珍しいサラダやマフィンなど何か一つ気になるものをオーダーして挑戦した。また、機会を見つけ店員やカフェで隣に座った人などと英語での交流を試みた。母が50歳を過ぎてから趣味で英会話やイタリア語、中国語の勉強をしたり、辞書を引きながら何か月もかけて英語のハリー・ポッターの本を読んでいたりしていたのは知っていたが、異国の地で人とコミュニケーションしようとする姿勢と度胸には少し驚いた。また、父は食わず嫌いが多いのだが、レストランやカフェで出されたものは何にでもトライし、苦手と言っていた（実際には、食べたことが無かった）パクチーも克服した。また、父は少々忘れっぽく、メガネやカメラをどこかに置き忘れ、ちょっとした騒動になったこともあった（結局、車の中で見つかった。。）。マオリ村のツアーでは、男性自由参加型のマオリダンスに参加し、見様見真似でハカを踊った。ビデオにその姿を収めた私たちはずっと笑っていた。子供の時の私の目には、母が少しおっちょこちょい（この遺伝子を私は得た）で父は仕事人間ならではの厳しいしっかり者、という印象だったが、なんだか二人共、歳をとり、良い意味で変わったと思う。また、二人とも、植物と鳥に殊の外興味を示し、見たことが無い種類のものを見つけると、写真を撮ったり二人で話し合ったりしていて、そのような両親の姿を見てとても微笑ましく思った。両親が仲が良い姿を見るのは、いくつになっても嬉しいものだ。私の成長や変化を、二人はずっと見ていてくれた。昔旅行に連れて行ってくれた時は、私が今回両親にしたように、私たち子供の体調を気にかけ、食事を気にかけ、楽しんでいるかを気にかけ、面倒を見てくれたんだな。。自然にそんなことが頭をめぐり、改めて感謝の気持ちを抱くと共に、今まで自分のこと中心で、親のことをあまり知らなかったこと、知ろうとしていなかったことを残念に思った。そんな両親との思い出エピソードを、次回から少し残しておきたいと思う。テカポ湖にて。
18Nov
- アボカド・サーモン寿司のアイデンティティ
  ニュージーランドに来てから口にする回数が増えたもの、それは豆乳、マッスル貝、そしてお寿司である。豆乳は、スーパーで一リットルパック入りの豆乳を買って飲んでみたところ、意外に美味しくてすっかりリピーターになってしまった。私はライトタイプのものが好きなのだが、牛乳よりもクセが無く、口に含むと大豆の香りとコクが広がり、コップにたっぷり注いで毎日でもぐびぐび飲める。最近では、朝ごはんのシリアルにも豆乳をかけ、カフェでコーヒーを頼むときもソイ・ラテというハマりぶりである。シチューやグラタンのホワイトソースやクリームスパゲティにも牛乳の代わりに豆乳が使えるらしい。こんなに美味しいうえ、豆乳を飲むと、美肌効果、便秘解消、生理痛の緩和、更年期障害対策、そしてバストアップというような女性に嬉しい効果も期待できるという。今度、どんな豆乳料理に挑戦しようかとレシピを見てわくわくしている。マッスル貝は、見た目が豪華なわりにニュージーランドのスーパーで割と安く手に入る魚介類の一つ。我が家での主な調理方法はトマト煮か白ワイン蒸し。貝自体がとても新鮮なので調味料はシンプルなものが一番、仕上げに自家栽培のパセリをちぎってふりかけると彩りも満点である。日本にいたときはマッスル貝（ムール貝？）など、食卓にあがることはめったになく、こじゃれたお店でパエリアかパスタを頼んだときにお目見えできるものだったような気がする。新鮮で大ぶりのマッスル貝が安く手に入り、家庭で堪能できるのはニュージーランドならではだろう。そしてお寿司。これにはピンときた方もいるかもしれないが、日本食レストランの職人が握ったお寿司ではなく、テイクアウェイ・パックとして売っている握り寿司の詰め合わせのことである。食欲があまり無いとき、時間があまりないときのランチの救世主は、やはりこのお寿司パック。日本のお寿司と比較せず、ニュージーランドのお寿司として認識し直すと問題無しである。個人的にこちらのテリヤキ・チキンは甘すぎて食べられないが、私がよく注文するのは、新鮮なもしくは燻製のサーモンをアボカドと一緒に玄米飯と握ってもらったお寿司である。この食材の組み合わせも日本ではなかなか見られないのではないかと思う。日本を起源とする新しい多国籍料理である。食べ物は旬のものが美味しく体にも良いというが、現地のものを現地の空気の中で食べるものも美味しく食べる秘訣だと思う。料理や食べ物の誕生には、その場所の水や風土、文化が深く根付いている。いつか日本に完全帰国したときは、アボカド・サーモン寿司を作ってほうばりながら、ニュージーランドの海や空、そして関わった人たちとの思い出を一緒にかみしめるのだろう。
25Oct
- ボールいっぱいの夢プリン
  誰しも子供の頃、食べ物に対して、ささやかな希望や夢を持ったことがあると思う。中国人の友人は、小学生の頃親からお小遣いがもらえなくて、同級生たちが学校帰りに買い食いする羊肉の串焼きをうらやましく見ていたという。そして、お金を稼ぐようになったら腹一杯串焼きを食べよう、と決意していたという。そんな話をしながら、彼女は行きつけの串焼屋で嬉しそうに羊肉をほうばる。また、実家にいるとき親が甘いものを買ってくれなかったという友人は、スーパーに行くとケーキやらクッキーやら甘いお菓子をやたら大量に買い込む。ずっと食べたくても食べられなかった反動だよ、と友人は笑う。私の場合はどうだろうか。実家で暮らしていた頃、母はほぼ毎日、私たちにおやつを用意してくれた。学校から戻ると食卓のおやつを五人家族、五等分に分けるのが日課で、我が家のしきたりだった。父も母も兄も妹も、年齢関係なく、どんなおやつでもキチンと1/5、である。その量制限のためか、私はいつか一人で袋菓子の中身を全部平らげられたらな、というささやかな願いを抱くようになった。また、普段は小さなカップに一人一個だったフルーチェやプリンを、ボールやバケツいっぱいに作って大きなスプーンで食べることも当時、将来絶対にしようと自分に誓っていた夢だった（なんて食い意地が張った小学生でしょう。。）。しかし、やがて自分でお金を稼ぐようになり、小さい頃の夢が簡単に実現できるようになったとき、私はそれを実現するのが億劫になってしまった。ボールいっぱいのプリンなど食べたくないし、食べきれない。ポテトチップも摂取カロリーによる罪悪感を減らすため、他の人とシェアして食べたほうが良い。年齢をとると共に価値観も味覚も変わり、小さいときの”夢”は輝きと存在価値を失ってしまったようだ。ただ、当時の願望は思い出として、心の中に残っている。今となって思うのは、ささやかな願いや夢は、叶えられるときに叶えてしまおう、ということだ。夢は、放っておくと色褪せて”賞味期限”が切れてしまうことがあるからだ。食べたいものは、食べられるときに食べて、達成感や充実感を味わうことが、大切だ。そう、今食べたい”お煎餅”を後回しにとっておくと、やがて歯が抜けてしまって食べられなくなってしまうかもしれない。そのときは、もしかしたら大きなボールのプリンをありがたくいただくようになるのかもしれない、大きなスプーンで、子供の頃の夢と共に。
24Oct
- 味噌汁と本質を求めて
  Happy staff, happy customers という言葉を聞いたことはあるだろうか。直訳すると、幸せなスタッフが幸せなお客さんを作る、つまりスタッフがHappyなら（楽しい環境で満足する給料をもらって働いていれば）顧客に対するサービスも自然と良くなり、顧客も満足してHappyになる、という意味である。勿論、”幸せ”なスタッフの対応が良いとは一概に言えないが、私はこれを一理ある、と思っている。人は、自分がある程度満ち足りていて幸せなとき、自分自身がある程度安定しているときに、周りにも目が行き、誰かを思いやる心の余裕ができ、何かを与えたくなるものかもしれない。それを偽善と呼ぶか、精神的な豊かさと呼ぶかはわからないが、幸せな気持ち・相手を思いやる心というものは相互に影響を与え、連鎖・循環していくと思う。でも、私がより尊敬するのは、自分が何も無いのに、満たされているように見えない状況でも、周りに笑顔や幸せを与え続けることができる人である。それは、そこにある幸せな気持ちを”譲渡”するのではなく、自分で創り出す行為だと思うからである。さらに言うと、人は窮地に立たされたとき、ぎりぎりの状態になったとき、その人の本質・本性が出やすくなるのではないかと思う。そのとき、何を優先して、何をするのか。そこには、むき出しの価値観がある。ちょっと難しい話になってしまったが、簡単なことだ。先日、私は高熱を出して寝込み、何もできず、何も喉を通らない状態にあった。頭は痛く、咳も出た。このとき、私が考えたのは、早く直さなくては周りに迷惑がかかるということ、仕事に影響してはいけない、ということだった。咳は苦しく、無理にでも笑顔など作れない。このとき、唯一食べたいと思ったのが、何者でもない、熱い味噌汁だった。何とかベットから這い上がり、味噌汁を作った。具はネギだけ、出汁は多め。熱い味噌汁をすすると、少し食欲が出た。そうだ、ゆかりを入れたご飯なら、少し喉を通りそうだ。そうしてご飯を食べたら、薬が飲めた。私は思った。やっぱり胃は正直だ。元気が良いときは何でも食べられるし、またパスポート上の国籍や生活習慣も変えられる。しかし、調子が悪いときの胃の好みは変えられない。悔しいけど、私にはこじゃれたコーンスープでもコーヒーでもなく、味噌汁が必要なのである。
23Oct
- しろくまちゃんと、ホットケーキ
  幼少の時大好きだった絵本、"しろくまちゃんのほっとけーき"の作者、わかやまけんさんが二年前に亡くなっていたというニュースを最近聞いた。あの絵本は、幼い私に料理の作り方をやさしく楽しく教えてくれた初めての"レシピ本"だった。当時、お昼やおやつに母と妹とよくホットプレートでホットケーキを焼いたが、焼けるまでの間、絵本の中で使われた「どろどろ」「ぷつぷつ」「ふくふく」などの擬音語を口で真似ながら何度ケーキをひっくり返したか知れない。料理をして食べるワクワクを教えてくれたのもこの絵本だった。幼稚園の卒園アルバムの表紙に、自分の好きな絵本の一場面をクレヨンで描くという課題があった。私は迷いなく"しろくまちゃんのほっとけーき"を選んだ。理由は、単純に好きだったから。もう一つは、絵が簡単で描きやすいと思ったからである。ホットケーキを焼く場面、もしくは焼き上がりをこぐまちゃんと食べるシーンを描こうと思った。しかし幼稚園の先生は、そんな私の考えを見破ったのか、"もう年長さんだからもう少し難しいのに挑戦してみようね"、と私を説得した。結局このしろくまちゃんを私の卒園アルバムの表紙にできなかった苦い(?)思い出がある。そんな幼少期の家庭のおやつの代表、思い出だったホットケーキも、ここニュージーランドではおしゃれなカフェメニューの一つである。ふわふわに分厚く焼かれたホットケーキが何枚も重ねられメープルシロップや粉砂糖、フルーツやクリームで素敵に盛り付けられた姿は、なんだか自分が知っているそれよりも洗練されていて、ちょっとよそよそしい。女子大生かOLになった"しろくまちゃん"と"こぐまちゃん"が恋話をしながら食べるにふさわしいな。。等と少し馬鹿な想像をしながら、カフェでナイフとフォークを動かし、ホットケーキを頬張る。そして、コーヒーを飲む。私も大人になったものだ、でもある意味ではあまり変わっていないのかも、としみじみ思う。
22Oct
- カジノとレモネード
  ニュージーランドの政権交代及び近々始まるであろう新しい政策について、私の周りではこれからの三年間を憂う声が増えている。果たして永住権はまだ目指せるのか、家の価格は下がっていくのか？ローンの利子は？留学生が減ったら雇用・ビジネスはどうなるのか、、、。個人的には、資源を持たないニュージーランドで外からの人と金を制限することは、ニュージーランドの経済発展に打撃を与え、留学先、長期生活をする場所としての魅力を失ってしまうものと懸念している。短期旅行先として、どこまで人を引きつけて行けるかどうか。。ニュージーランドと日本間のビジネス・文化交流をもっと元気にしていこうと思って頑張ってきた矢先、正直、将来に対する不安と戸惑いがある。そんな連休。特に出かける予定もなく将来の計画に思いを馳せながら部屋の掃除をしていたのだが、夜、思い立ってSky cityのカジノに来てみた。以前1度友人と遊びに来たことはあったのだが、このドルに塗れた世界感が好きになれなかった。今宵は、ちょっと気分を変えて遊んでみたい気分だ。20ドル分の交換券とレモネードを買い、バーと舞台の近くに席を陣取る。ルーレットを回すためにボタンをたたき続けた。舞台では賑やかな歌とダンスが繰り広げられている。なんとも俗で華やかな世界だ。と、歌が終わり、とたんに静かになった。ピアノ演奏が始まった。"虹の彼方に"。たくさんのひとがソファに座ったりお酒を飲みながら思い思いに演奏を聴いている。私はそんな人々を眺める。ここでは、何もかも平等。皆、お金を使い、スリルを楽しむ。勝つことを望む。ここで、一晩で何人の人がたくさんのお金を失い、泣いたか。一攫千金して笑った人もいるだろう。ここには、お金と楽しみを求めて泣いて笑う人々の物語がある。。そんなことを考えながら20ドルをあっけなく使い果たし、レモネードを飲み干すと、なぜだか少し元気が出た。みんな、この世界に生きている。泣いたり、笑ったりしている。政治が変わろうと変わるまいと。人種に違いがあろうと。結局は毎日、自分ができることを、自分が正しいと信じる方法で、そして自分ができる範囲で、続けていくしかないんだ。その積み重ねが、誰かの幸せや笑顔につながっていくことを信じて。
07Oct
- 父のボンゴレ・スパゲティ
  この一か月あまり、仕事と勉強に追われ、また季節の変わり目なのか体調を崩してしまい、すっかり間が空いてしまった。先週、父が古希を迎えたため、楽天でちょっと良いガーゼのパジャマを吟味して注文し、実家に送った。海外にいてもオンライン注文、クレジットカード決済で必要なときに家族や友人に贈り物ができる、便利な時代になったものだと思う。さて、父は去年から今年にかけて大きな病気をし、数十年続けた喫煙をきっぱり止めた。私は実家で高校生まで過ごしたが、毎朝毎晩リビングで喫煙する父をあからさまに嫌がり反抗し、それが原因で父の機嫌を損ねることもしばしばあった。今でこそ性格が丸くなったが、父は、当時かなりの亭主関白だった。父はまた、典型的な仕事人間で、公務員で設計の仕事をしていた。残業は比較的少なかった気がするが、付き合いの飲み会にはよく参加していた。普段料理をすることなどほぼ無きに等しく、家事全般・子供の世話は母の役割だった。そんな父が唯一、得意と豪語していた料理が、焼きおにぎりだった。飲み会で遅くに帰宅したとき、家での晩酌の後、父は気が向くと台所に立ち、おにぎりを握った。父は私たちにも食べるかと聞き、私たちの答えが何であれ、自分の分以外に、二つ三つ多く、おにぎりを握った。醤油と砂糖を混ぜたたれを刷毛で表面に塗り、網の上で焼いたおにぎりの香ばしいにおいが漂ってくると、私たち兄弟は夜中だというのに、どうしても一つ、もらいたくなったものだ。大きな手でしっかり握られた大きなおにぎり。中身は決まって福神漬け。砂糖醤油が焦げてとても美味しいが、ともかくでかい。されど、残すと怒られそうなので私たちはおにぎりを食べ続け、目を白黒させて飲み込んだ。私たちが食べ終わると父は満足気に頷き、自分の作った焼きおにぎりのクオリティの高さに満足しさらなる自信をつけるのである。私が実家を離れ、大学を卒業するころ、父は料理のレパートリーを増やした。カレーライスとスパゲティを作れるようになったのだという。父は続ける。いとこ会で出したがすこぶる評判が良かったのだと。聞いてはいたが、私は仕事で海外に飛び、その後ニュージーランドに移住したため、帰省する機会も少なく、父の”新作”を味わうことはなかった。そして去年末。ニュージーランドでの仕事も落ち着き、年末にかけて帰省することができた。10年ぶりに実家で過ごす正月。父は病気のため体重も体力もかなり落ちた。退職したせいか、より世話好きになった。翌月に手術も控えていたが、私にスパゲティを作ってあげると言い出した。私もお手伝いすると言い、一緒に台所に立った。父が得意とするのは、トマトベースのボンゴレスパゲティ。新鮮なベーコンとアサリ、茄子とキノコをたっぷり入れる。それにニンニクも。父は手慣れた様子で材料を切って炒め、ソースを作り、茹で上げたスパゲティと合わせた。フライパンの中身を一生懸命混ぜ合わせる父の背中は思っていたよりも小さく、少し目頭が熱くなった。そして出来上がった父のボンゴレ・スパゲティ。青いお皿にたっぷり盛られ、赤いトマトソースとパセリの緑が鮮やかである。味もしっかりしている。父は嬉しそうに家族にスパゲティの制作工程を一通り説明してみせた。私も母もスパゲティをもりもりと食べ、完食した。父はその後、手術に成功し、現在回復中である。母と二人で12月にニュージーランドにやってくる。彼らが来たら、ニュージーランドの食材でスパゲティを作ってあげよう。
11Aug
- ○○マリネイティド・ビーフ、kiwi風
  先日、友人たちと旅行に行ったときのこと。ユニットタイプのMotelに泊まったのだが、けっこう立派なキッチンが付いていた。私たちは相談の後、近くのスーパーで晩御飯の食材を買い込み、部屋のキッチンで調理してゆっくりワインとともにいただこうという話になった。たまにはこういうのも良い。友人は、キッチン内を物色し、調理器具や食器類、それにワイングラスも揃っていることを確認した。"コーヒーやインスタントのティーバックもたくさん種類があるし、塩こしょう、それに油まである！"なんて気が利くモテル！さすが、旅行者の需要を理解してる！と感心した私たちは夕飯のメニューをビーフステーキに決め、スーパーで食材を買い込み、帰って来た。まずは肉を焼こう。ミディアム・レアくらいに焼いて、味付けは塩こしょうだけ。袋入りで買って来た生野菜もあるし、家から持ってきた赤ワインもある、ばっちりだ。そう思って私たちは、いそいそと、油をしいて熱したフライパンに肉を入れた。なんだか違和感がある。肉があまりジュージュー言わないのである。電気だから火力が弱いのか、何か特別な油なのか。それに、心無しかなんか泡立っているような。そう思って備え付けの"油"をとってマジマジと見たとき…。。アッ。。。これ、油じゃない。。？もう一度、写真を見てみよう。なんと、食器洗い洗剤。。なぜ塩こしょうと連れ添って食器洗い洗剤が置いてあるのか（文脈から言って油じゃん）！でも、いま言えることは、私たちは奮発して買った肉を洗剤漬けにしてしまったということだ。とりあえず、ミネラルウォーターで肉をざぶざぶと洗い、油気のなくなったフライパンに入れて焼き直す。ニュージーランドの洗剤だからきっと自然派だよ。少しくらい残っていても害は無いであろう？ホラ、よくkiwiは食器をよく漱がず、洗剤の泡が残っていても気にしないって言うじゃん。。ここはウェルダンにしよう、よく焼けば大丈夫だよきっと。。などなどと慰めながら焼き上げた、ザ・洗剤マリネイティド・ビーフ、kiwi風。さて、お味の方は果たして？自分たちのドジ話をツマミに赤ワインを飲む女子ナイトは、ゆっくりと更けていく。。
08Aug
- 終わりを意識するから
  私はどういうわけか、終わりゆくものに美しさを感じる。生命が芽吹く春よりも紅葉が散る秋、朝日よりも夕暮れ時、旅の始まりより、旅の終わりに近づいた頃。。終わりが好きなのではない、終わりに近づくころ、終わりゆくときに、何か物寂しさを感じさせられ、同時に帰郷の念に駆られる。どこかに帰っていく、いや還っていく、という部分で共通しているのかもしれない。どこか寂しいような、それでいて、ほっとするような。大切な何かに気づいたり、自分を見直すのも、その時なのかもしれない。何かの終わりに近づいたとき、突然大切な人やものに気づいたり、人のやさしさに感謝したり、感動したり。それは、終わりを意識するからこそ、気づけるもの、なのかもしれない。”起・承・転・結”とはよく言ったものだな、と思う。いつも、何かが起こるのは”転”。終わりの手前で、人は気づく。何かが起こる。本当に面白くなるのは、そこから。
07Aug
- 2ドルのクリスマス・プレゼント
  これは、まだ私がとあるレストランでアルバイトをしていた時のこと。私が当時住んでいた西オークランドから、職場までにバスを2回乗り換えなくてはならず、時間にして2時間かけて通勤していた。その日、私は夏服の整頓をしており、家を出るのが少々遅れてしまった。バス停まで時間にして20分の距離…バスは一時間に二本しか出ておらず、一旦その時刻のバスを逃したら即、30分の遅刻である。私は不機嫌な顔のマネージャーの顔を思い浮かべながら早足でバス停に向かった。日頃の競歩の訓練(注記: いつも何かと慌てて歩いているだけ)が幸をなし、5分前にバス停に着いた。余裕である。さて、バスカードでも準備しておこうかね♪、とカバンの中を探った時、青ざめた。先ほど冬物を整理した時、カバンを夏用のものに変えたのだった。財布もバスカードも全て今まで使っていたカバンの中である。。今から家に戻ったら往復で40分かかり、一時間の遅刻である。今日は大切なお客様がいるっていってた、、頭の中のマネージャーの眉がきりりとつり上がる。まだバスが来るまでに5分ほどある。落ち着いて、落ち着いて…。カバンの中を探るといつどうやって入れたのかコインが数枚あった。目的地までにあと必要な金額は、、2ドル。2ドルならなんとかならないか！そして私は自分でも思いがけない行動に出た。道行く人に2ドルを貸してもらえないか尋ねるのである。1人目。全く相手にされなかった。と言うよりも、自分は透明人間になってしまったのかと一瞬疑ったくらいだ。気を取り直して2人目。中東系のおじちゃん。キャッシュを持っていないんだ、ソーリーと言われた。よくあることだ。正直、私がこのおじちゃんだったら、同じように断るかもしれない。お礼を言い、３人目。50歳くらいのおばちゃん。事情を口早に話すと、おばちゃんは快く承諾してくれた。小さな小銭入れから2ドルコインを取り出すとき、これで本当に足りるの？と心配までしてくれた。私はおばちゃんのやさしさにジーンとしながら、2ドルコインを一つ借りてお礼を言った。後で返すので、連絡先を教えてください、と言うと、おばちゃんは言った。”返さなくて、いいよ。少し早いけどメリークリスマス”。こんなよい人には何かお礼をしたい、という一心で連絡先を聞き、少し遅れてやってきたバスに乗り込み、その場を去った。仕事先の開始時間にも間に合った。その後。。テキストでのやりとりを通してそのおばちゃんの孫が日本に興味があることを知り、日本語を教えてあげようとおばちゃんの家に行くことになった。おばちゃんは近所に住んでいた。少し驚いたのはそのおばちゃんの家。一階建てのせまい部屋を借りているようで、とても裕福とは言えない環境。でも、困っている見知らぬ人を助けてくれたおばちゃんの心は豊かだなと改めて、思った。きれいな和紙で折ったコインケースに2ドルコインを入れて渡すととても喜んでくれた。このおばちゃんとの出会いを通して改めて考えさせられたのは、自分は、家族や友人が本当に必要としているものを、必要な時に与えられているか、ということ。自分が良いと思うものを与えても、それは独りよがりな自己満足にすぎず、その人が本当に必要なものではないかもしれない。その人にとって必要なもの、それは、ちゃんとその人のことを見て、聴いて、話していれば感じ取れるものなのかもしれない。そしてそれを与えると同時に自分も心の豊かさを与えられるのかもしれない。誰かが言ってた。”ダイヤモンドが好きな人に薔薇の花束をあげても、喜ばれないよ。逆に、薔薇の花が好きな人にダイヤモンドをあげても喜ばれないよ。その人が本当に喜ぶものは何なのか、心で見つけよう”2ドルのクリスマス・プレゼント。それは私にとって忘れられない大切な宝物になった。折り紙って意外に他国の人たちに喜ばれる。子供のときに習得した技が今やっと、日の目を見た。。
05Aug
- ダーク62％の声
  甘党の私は、仕事や勉強の合間に、チョコレートがむしょうに食べたくなる。頭に栄養の補給をしなくてははかどらない、ともっともらしい理由をつけ、休憩と称しチョコレートをむさぼるのである。ニュージーランドのチョコレートは日本のそれより少々繊細さには欠けるが、コクがあり、チョコレートを食べた満足感を与えてくれる。私がもっぱら好んで食べるのが、Whittakersのチョコレート。種類もフレーバーもたくさんあり、いつもどれを買うかスーパーで迷ってしまう。ある日のこと、スーパーに買い物に行った私は、チョコレート売り場で計画的に足を止め、今月の一枚を選んでいた。ココナッツ入りのもよいし、クリーミーミルクも捨てがたい、、ベリー＆ビスケットもいいなあ。。5分くらいそこに滞在していただろうか、突然背後から、声が聞こえた。"Yes, indeed, this would bea very difficult decision in your life" （確かに、人生においてとても難しい決断だね）。そこで初めて、後ろに中年の白人のおじさんが立っているのに気付いた。おじさんもチョコレートを買うためにその場所に来たが、私がチョコレート選びに真剣に迷う様子を観察していたようだ。いつからいたのか。。ちょっと照れるなあ、、しかし私が難しい選択を強いられている（誰も強いていない。）ことに同情し、共鳴してもらったことは嬉しかった。私がおじさんに場所を譲ると、おじさんはお礼を言い、ダーク・アーモンド（62％）を3枚、ひょいと手に取り、言った。”This is the BEST”私は天からの救いの声を聴いたような気がした。迷いなく、ダーク・アーモンド（62％）を一枚かごにいれ、さっそうとレジに向かった。休憩タイムにひとかけら食べた。ローストされたアーモンドの香ばしい風味と少し苦めの、カカオの味の効いたダークチョコレートがなんとも絶妙なバランスである。おじさん、ナイス選択である。きっとおじさんも色々食べ比べたのち、彼にとってベストな一枚を見つけたのであろう。それからというもの、迷ったときはこのフレーバーだ。間違いない。（おじさんに）だまされたと思って試してみて！
04Aug
- 私のバス下車、奮闘記
  オークランドに来たばかりの頃、公共バスに乗ることが、どうも慣れなかった。正確に言うと、降りることに慣れなかった。乗車するときは、乗降扉付近にあるカードリーダーにバスカードをかざし、言葉を一言も発することなく、何食わぬ顔で乗り込めばよい。しかし、下車するときがやっかいである。運転手は走行中、到着先をアナウンスしないので、自分が住むところに一番近いバス停の近くに来たら、ベルを鳴らすか、運転手に次のバス停で降りる旨を大声で伝えなくてはならないのである。もし運転手に伝わらなかった場合は、容赦なくバス停を通過され、泣く泣く一駅歩くことになる。私はバスの一番後ろの席で音楽を聴くのが好きなのだが、音楽を聴きながらも窓の外の風景に気を付けていないと、あっという間に自分のバス停を通過されてしまうため、気が気でない。特に夜など人が少ない時間帯にバスに乗ると、運転手は”バス停には止まらない”前提で走るので、スピードも心なしか速くなる。前にベルが壊れており押しても押しても停車表示ライトが点かないときがあった（通常は、ベルを押すと”次の駅に止まります”というライトが点き正面に表示される）。恥ずかしがり屋の私は後ろから、運転手まで聞えるほどの音量で叫ぶことが憚られた。そして、そんなこんなでモジモジ、わたわたやっている間に、降りるべきバス停を通過され、大声を出せなかった自分を悔やみながら一駅歩くことになるのである。歩いている間に考えた、どうすればこの状況を避けられるのか、と（大声で運転手に知らせばよいのに、というもっともなつっこみはしないように）。そして思いついた。一つ、乗車するときに運転手に下車場所を伝え、止まってもらう。二つ、毎回運転手と話し、自分を印象づけ、毎回同じ下車場所で止まってもらう。三つ、降りる駅のちょっと前に来たら、運転手の近くの席までそろそろと移動し、リマインド。さっそく次のバスから実行。乗車時の運転手との交流は効果てきめんで、何度も同じ時間帯のバスで繰り返すうち、運転手とも顔見知りになり、ちゃんと同じ場所で止まってくれるようになった。また、乗車・下車時のちょっとした会話・挨拶も楽しみの一つになった。バス奮闘記、結論。やはり小さなコミュニケ―ションの積み重ねが大事である。どんなに小さなことでも。生活・人生において交差する人たちとのこうした小さな交流の積み重ねが、豊かな心と社会における和やかな人間関係を築いていくのだと思う。※これは公共バスではありません、念のため　(←誰が間違えるかい！）。
03Aug
- ピザと私の約束
  つくづく、人（私？）の思い出は食べ物の記憶と密接なつながりがあるなと思う。父は69歳で退職したが、その後病気にかかり大きな手術をしたことがきっかけで、実家で父母と過ごした20年余りの生活を思い返すことが多くなった。また、日々の生活の中でたまに幼少期の記憶がフラッシュバックする。20代、30代前半のときは自分の生活・仕事に必死で、こうして過去を顧みることはあまりなかったと思う。そんな私もあと数年で40、歳を重ねるとはこういうことなのかなとも思う。ピザの思い出もその一つだ。ニュージーランドのファストフードで売っているピザは、こちらの物価で見ると驚くほど安い。安いものだと、一枚5ドルでチーズと具がたっぷりのったボリュームのあるピザが食べられる。1ドル80円とすると、一枚400円。コーヒー一杯とほぼ同じ値段である。ピザは幼少期の私にとって特別で贅沢な存在だった。初めてピザを食べたのは小学生1年生くらいのときだったと思うが、電車で40分くらい離れた町に行かないと食べられなかった。当時小学生だった私たち三兄弟（兄、私、妹）は2か月に一度、母と電車に揺られてその街に行き、歯の矯正を受けさせてもらったが、その歯の治療の後、決まって食べる唯一の外食がピザだった。今でこそどんな系統のレストランもたくさんあるが、当時、その街でピザを食べさせるお店は多くなかった。毎回、治療が終わると行きつけのピザハウスまで歩き、4人で相談して好みのピザを2枚頼む。私たちが好きだったのは、チーズとサラミがたくさん載ったピザ。治療が終わった後なので、暖色の電灯の下で食べる皆の顔も心なしか明るい。食べ終わり、再び電車に乗って父の待つ家に帰る。そんな日が月に一回あり、それは2年くらい続いた。歯の矯正・治療は痛みが伴い、幼い私たちにとって苦痛な経験なはずだった。でも、その記憶が今思い返してみても嫌なものでないのは、まさしくこのピザのお蔭である。母も矯正の費用・交通費など多大な金銭的負担がかかる中でよく工面したなと今になって思う。治療の後でそんなこってりしたピザを食べて大丈夫だったのだろうかという疑問も残るが。。。2年後、歯の矯正は終盤に差し掛かり、その矯正歯科に行くのも3か月に1回、半年に1回と次第に少なくなっていった。同時に私たちがピザにありつける頻度も少なくなっていった。そして、そのうち、矯正は終了し、私たちの”ピザの旅”も完結した。大きくなってからも宅配ピザを頼んだり、レストランでピザを食べる機会も少なくなかったが、どういうわけかピザを頼むときはいつもなぜかわくわくした気分になった。そして幼少期の記憶から、ピザは一人で食べるものではなく、みんなで分け合って食べるもの、という私のなかでの譲れない決まりがある。それは、ニュージーランドの5ドルピザも同じ。今となっては安くて気軽に食べられるピザも、やはり私のなかでは特別な存在であることに変わりない。皆でピザを選び、シェアしてわいわい食べる。それは私がピザをいただくときの暗黙の約束になっている。健康な歯と、それを与えてくれた母に感謝しなくては。これはサーモンのっけ窯焼きピザ。ピザ職人さんが長い鉄の棒を駆使して仕上げた絶妙な焼き加減。
02Aug
- フィッシュアンドチップスの洗礼
  ニュージーランドの名物グルメって何だろう？オークランドに引っ越してくる前、私は旅行の前にいつもそうするように、ネット上でその土地の美味しいものチェックをしていた。”ニュージーランド、グルメ”、と入力し、さっそく検索。検索結果を眺めていて、意外に目についたのが、フィッシュアンドチップス。。え、これってイギリスで”（悪）名高い”、あれのこと？そうか、イギリス人が移住してきてニュージーランドにそのまま根付いたのか。でもニュージーランドに行ってまで食べたいものではないな。そんなことを考えながら、間もなく始まるニュージーランドの新生活に想いをはせていた。ニュージーランドに引っ越してきてから数か月経ったころ、南島を車で旅行した。初夏で天気が良く、さまざまな色に輝く湖を眺めながらのドライブは何とも言えない解放感。途中、小さなタウンを横切り、小腹が空いたし、ここで休憩して何か食事でも、と思ったとき、見てしまった。フィッシュアンドチップスの看板を。これは試さねばならぬ、と断念した。それは、中国系夫婦が二人で経営する小さなお店だった。扉を開けると店内は油のにおいが立ち込めており、先客が数人、魚のフライが巨大な油缶のなかで揚がるのを待っていた。わたしはすかさず”本日のフィッシュアンドチップス”を注文した。魚の種類はホキだったか。しっかり揚がったフィッシュアンドチップスは英字新聞にくるまれ、大きな包みとなり渡された。車の前のベンチでおもむろに包みを開くと、すでに新聞の大半にじっとりと油が染みている。チップス、いわゆるポテトフライがこれでもかというほど魚のフライの間に押し込まれ、湯気を放っている。フォークで魚を刺し、口に入れる。魚は意外に新鮮。次に主食（？）のポテトフライも。これはおそらく冷凍ものだろう。塩コショウが大量にふりかかっている。食べ進むうちに、どっちに転んでも油の束縛から逃れられないことを遅ればせながら知った。白いディップが小さな容器に入ってついてきている。口直しと思ってフィッシュをディップして食べてみると、マヨネーズだった。やはり油のトリプルパンチだ。せめてケチャップにしてほしかった。。。初夏のニュージーランド。アスファルトの地面に木のベンチ。そして、大量のフィッシュアンドチップス。じりじりと熱くなってくる日差しを感じながら私はひたすら食べ続けた、文字通り脂汗をかきながら。そして自分がニュージーランドの土地に馴染んでくるのを肌で感じた。あの日以来、私にとってフィッシュアンドチップスは、旅路で食べたあの味。大げさなようだが、あの体験をしてから、私はニュージーランドとの距離が一歩縮まったとも思っている。油っこい文章になってしまったので、さわやかなBlue Springの写真でお口直しを。
01Aug
- 暖かさのおすそ分け
  冬のある寒い週末のこと。シティで映画を見終わりすでに日も暮れかけていた頃、さて何か暖かいものでも飲んで帰ろうかと思ったとき、ちょうどスターバックスの前を通った。ここのスタバはいつもほぼ満席、学生とみられる若者がほとんどで、飲み物片手に尽きないおしゃべりに興じている。コーヒーをゆっくりした環境で飲みたい私はあまりスタバを好まない。しかし、この日、吐く息白く、冷える外から見たスタバの中はとりわけ賑やかで暖かく、中で忙しく働くスタッフの笑顔がまたアットホームな感じの雰囲気を創り出していた。引き寄せかれるように中に入った途端、後悔した。長蛇の列がドアの入り口まで連なっていたのである。やっぱり出ようかな、と思ったが、室内は暖かい。暖かい中でちょっと待ってもよいじゃないか。あと３，４人でスタッフに注文ができる距離まで来たとき、カウンターの前で注文をしている中年の婦人二人が笑いながら後ろの二人（私の前の人たち）に何かを聞いていた。聞き終わると笑顔でスタッフに何かを伝え、今度は私の方まで首を伸ばして聞いてきた。”Dear. What would you like to drink? ”は、私に聞いてる？聞いてみると、その二人の婦人はオーストラリアからの旅行者で、スタバでのスタンプがたまり、自分たちのコーヒー以外に3杯無料になる。しかし夜の便でオーストラリアに帰ってしまうため、その無料の分を後ろの人たちに御馳走していたのだ。私がちょうどその3杯目だというのだ。こんなとき、素直にヤッター！ラッキー！と喜んでよいのか大和撫子らしく慎み深く、遠慮した方がよいのか。一瞬リアクションに困ったが、自然なリアクションをとった（正直に言おう、前者である）。私がじゃあカフェ・ラテをください、と伝えると、婦人たちはにっこり笑い、スタッフに伝えた。三杯目はラージでカフェラテで、と。婦人は自分たちが注文したコーヒーを受け取ると、列を離れながら後ろの私たちに微笑んだ。”enjoy your coffee!”。私たちもお礼を言い、ほのぼのとした雰囲気が広がった。カフェ・ラテを受け取った私は、心身ともにすっかり温まっていた。こんな人たちもいるんだ。。。旅行先で幸せをふりまいて行ってくれた。コーヒーを御馳走になった嬉しさより、もっと大きな何かが心に沁みてきた。
- 初めてのブログ
  初めまして。オークランド在住のMoanaです。この世界、どこに行っても、その地の印象を決めるのはそこで暮らす人々、風景、そして食べ物だと思います。街中に捨てられた紙コップのコーヒー一杯、雨のバス停、スーパーで泣く子供たち、、、その切り取られた画面の一つ一つに誰かの続いていく生活と物語がある。。そんな日常の物語を大事にしながら、日々の気づきを記録していきたいと思います。