本田さん
16年間の会社生活、お疲れさまでした。いちばん楽しかったのは制作だと言ってくれて、なんだか嬉しかったです。本田さんの抜けた穴を埋めるのは容易ではないけれど、残った誰かが頑張ると思います。どうぞご心配なさらないでください。もし、心配で仕方ないときは、在宅勤務のアルバイトという手があります。それでも足りなければ、いつでも戻ってきてください。背番号は永久欠番にして、空けておきます。
本田さんは、人に好かれる明るい性格はもちろん、仕事ができる人という社会人として最も大切な評価も高いレベルでした。実際、誰かが失敗したり他の方に迷惑をかけたりすると「本田さんに弟子入りしてきな」と、叱責されたものです。会議の席で、お手本として本田さんの名前が出ることもしばしば。胸にぶら下げていたデキる女の称号、誰にも異論はないでしょう。
でも、私は知っています。おおらかでおちゃめでちょっぴり天然なあなたの一面を……。
覚えていますか? 社員旅行で行ったフランス。サクレ・クール寺院へ行く途中、あなたと私は数人の同僚と信号待ちをしていました。
誰かが私の腰を指差して言いました。
「それ、カメラですか?」
「そうだよ。ここはスリが多いって聞いたから、カラビナでズボンのベルト通しに引っ掛けてあるんだよ」
「なるほど、そうしてたら絶対取られないですね」
「だろう?(ドヤッ」
と会話をしていたその時、腰のあたりが勢いよく引っ張られ、持っていかれそうに。うわっ!なになに?スリ?
驚いてよろけながら振り返ると、本田さんが両手でぐいっと。カメラを引っこ抜こうとしていました。真顔で。全力で。
じっと目が合い、一瞬の間のあと、私は口を開きました。
「……なに?」
「いや、ほんとに盗れないか確かめようと思って」
ニコっと笑うあなたは実にチャーミング……なわけないわっ!びっくりしたわっ!
その後信号は青になり、一行は何事もなかったように教会へ向かいました。
あのことは、生涯忘れることができないでしょう。そして、あなたがのことが話題になるたび、ホンダお茶目エピソードとして必ず披露します。
これからもずっとかわいらしいままで、そして家庭ではステキなママで、働くときは超絶パワーで、素直に生きてください。
それではまた会える日を楽しみに。
お疲れさまでした!ありがとうございました!
↓思い出のサクレ・クール寺院