《色は》カラー・アウト・オブ・スペース《五感に喰らいつく》 | そうでもなくない?

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 久しぶりの映画館。やはりいい。家で観るのもいいが、迫力が違う。楽しかった。このような状況下、大変な思いをして観客の安全を確保してくださる劇場関係者に、心より感謝したい。

 
 さて、感想をひとことで述べるとすれば「最高」である。
 類似作品を挙げるならば、『遊星からの物体X』であろう。ビジュアルで言えば『ヘル・レイザー』か。これだけで、界隈の方ならばもうワクワクして仕方ないだろう。
 原作は、言わずと知れたH.P.ラヴクラフト。クトゥルフ神話の創造者であるが、正直この作品はそこまで正確に再現されていない。舞台は現代なので、原作が醸し出すノスタルジーはない。原作から取り上げられているモチーフは隕石、宇宙から飛来した何か、色、井戸、変化した植物、ラストシーンくらいか。あとは家族構成といったところ。映画を観る前に原作を読み直したが、まったく異なる物と言っても問題はなかろう。
 だが、それでもこの映画の魅力が損なわれるようなことはない。むしろ、知らないほうが雑念なしで楽しめると言えよう。全編に満たされたSFホラー感はとても心地よい。前述した『遊星からの物体X』にも通じるドロドロネバネバテラテラも、思う存分楽しめる。
 
 さらに、もう好事家にはおなじみのニコラス・ケイジが、安定の狂気っぷりでにやにやしてしまう。最初から変な空気をまとった変人親父ではあるのだが、「色」の影響を受け始めたあたりから徐々に言動がおかしくなり(このあたりの塩梅がさすがの演技派!)、いつものように(笑)叫んだり喚いたり暴れ出す。特に、極彩色に変貌した畑で捻じくれたトマトや桃を収穫するシーン。畑があんな有り様なのに、浮き浮きしながら果実をもいで、水道で洗ってひと口食べるとめちゃめちゃまずい(当たり前だ)。それにブチ切れて、全部ゴミ箱へ打ち込むシーンは流石のひとこと。また、家族がめちゃめちゃになっているのに、ソファで優雅にバーボンをすするシーンも、大きな演技をせず表情と最低限の仕草だけで最高潮の狂気を観客にぶつけてくる。職人技。
 ふと思ったのだが、ニコラス・ケイジはこういう役が多い。この手のオファーを、好きで受けているのか。それともお金のため、役者の幅を広げるために苦渋の思いでやっているのか。
 
表のケイジ
「え? また狂って暴れる役ですか? ……わかりました。やらせていただきます。ええ、喜んで。だいじょうぶです頑張ります。任せてください」
裏ケイジ
(うふふまた大好きな役どころが回ってきたよぞくぞくするよーし暴れるぞぉ血まみれになるぞぉやっほーいまかせろぉぉぉぉ! さっそくぬいぐるみをあいてにれんしゅうだ)
 
裏であってくれ。
 
(以下少々ネタバレあり)
 
 さて、今回ちょっと斬新と感じたこと。従来のこの手の作品は、家族が5人いればひとりが狂って他の家族が犠牲になるか、ひとりだけ正気を保って最後まで逃げ惑うという展開が多いと思う。『カラー・アウト・オブ・スペース』では、家族のすべてが犠牲になる。娘はクライマックスまで正気っぽいが、ちょいちょいおかしな状況に襲われているので、やはり隕石落下直後から侵されていたのだろう。状況を打ち破ろうと黒魔術の儀式を執り行うシーン(ネクロノミコン!)は胃がキュッと縮んだ。
 家族が全滅するのは原作通りだが、救いがない結末はやるせない気持ちになる。だが、必要な展開なのだろうな。潔くはある。
 
 前述のとおり、本作品は原作の再現度は少ない。だが、おそらく監督はクトゥルフ教の信者であり、H.P.ラヴクラフトを盲信しているであろう。「わしの思い描くクトゥルフ神話はこうじゃ!わしはこう描きたいんじゃあ!」という思いがビンビン伝わってくる。ドロドロネバネバであったり、幼い子どもへの仕打ちであったり。強烈な熱を感じる。だから、上映が勤務後の21時開始→23時終了であっても、まったく眠くならなかった。終了後は、幸福感に包まれていた。リチャード・スタンリー監督に感謝。
 また、監督は色を感じる器官を視覚に限定せず、聴覚や嗅覚、味覚など五感に拡張させている。実際の映像で「見たこともない色」を表現することは不可能だ。原作は小説だから、読者の脳内に「見たことのない色」を出現させることは可能だ(個人差はあっても)が、映像は難しい。監督は色彩を感覚すべてにうったえることで、小説の優位性である「個人のイマジネーション」に追いついた。発想と手腕に感服である。
 
 ラストシーンは壮絶圧巻。ここは原作を忠実に、さらに強力に再現している。極彩色の景色が一瞬にして灰と化す。命を奪われた灰色の大地と、影響のなかった森との境目がくっきりと表されているのは、この作品の醍醐味の一つ。こだわりが感じられる。
 
 映像としては、やや懐かしさを感じた。もしかしたら、あえてあの頃の手法を用いていたのかもしれない。だが、きちんと怖く、きちんとエグく、きちんと面白い作品に仕上がっている。実は、予習として『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』を観ていたのだが、こちらはそこまででもなかった。だから、本作品の期待度はそれほどでもなかったのだが、いい意味で裏切られた。映画館に足を運んでよかった。