目の覚めるような青空。
透き通った風。
目に鮮やかな草木。
森を抜けた先にある、秘密の村。
90年に一度の夏至のお祭りがにぎやかに行われていて、村人はみな笑顔で歌い踊っている。
白を貴重とした衣装は、様々な色のステッチで飾られとても可愛らしい。
花々は咲き乱れ、景色を鮮やかに彩る。
テーマパークのように華やかな風景。
だがここは、信じられないほど狂気に満ちて、グロテスクで、幻覚のように歪んでいる。
私たちのような、外の人間からすれば。
決して、足を踏み入れてはいけないところなのだ。
祭りでは、村の繁栄のため儀式と称して生贄が捧げられる。
村人はみな、それを尊び、自ら命を差し出す。
まるで、カルト教団のようだと、観客は思うだろう。
だが、村人にとってはそれは祖先から受け継がれた、当たり前のこと。なにも、おかしくはないのだ。
そこが、そのズレが、この映画の恐怖だ。
外界の人間にとっては理解できない。すべてが噛み合わず、ずれている。修正は不可能で、心のひずみがどんどん酷くなってゆく。視界がグラリと揺れ、観客は、いつの間にか、村の一部に取り込まれる。気がつけば花に埋もれ、焼け落ちる神殿を眺めながら、うっすら微笑んでいる。
それが恐ろしい。
ところどころグロテスクな描写はあるが、本作品の恐怖はそこではないと感じる。
心が蝕まれる恐ろしさ。
この作品は、ホラー映画なのだろうか。
ドキュメンタリー映画ではないか。
事実は時として、空想より狂気だ。
この映画は、それを突きつけてくる。
吐き気が止まらない(称賛)。
その他の評価ポイント。
映像は美しく、極めて私好みだ。風景の中、人物が小さく写っているシーンが素敵。
主人公の気持ちを表しているのか、陽炎のように、幻覚のようになにかが揺れているところがいい。
壁や布に描かれたかわいらしい絵は伏線となっており、ひたすら不気味。
赤ん坊が泣き止まないのはなぜ?
歌や踊り、食卓に並ぶもの、すべて不穏に感じる。
年老いた男女の儀式、掛け合いはたまらない。
すべてにおいて、とても素晴らしい。
アリ・アスター監督。これからも期待しよう。