こんな夢を見た。
正面にあるライトが眩しくて、薄目でその向こうを見ている。よくわからないが、誰かいるようだ。
そいつが問う。お前は蕎麦が好きか?
おれは答える。蕎麦は食べたことがない。アレルギーなんだ。
そいつが続ける。うどんはどうだ?
おれは答える。うどんは大好きだ。
そいつが言う。じゃあ、蕎麦なんか食べずにうどんを食べればよかったんじゃあないか?
おれは考える。おれは蕎麦を食べたのか?いつ?どうして?体はなんともないのか?
おれは尋ねる。おれは蕎麦を食べたのか?
そいつが答える。それは、お前が知っているだろう。
知らないから、覚えてないから尋ねたのだ。もし、おれが蕎麦を食べたのなら症状が出ているはずだ。動悸、冷汗、蕁麻疹、発熱、目眩、血圧上昇、呼吸障害……喘息持ちだから、肺の血管が収縮して体に酸素が運ばれなくなり、酷ければ意識を失う。そのままお陀仏ってこともある。蕎麦食ってお陀仏だなんて、小石につまずいて川に落ちた土左衛門より始末が悪い。そうじゃないなら食べてないはずだ。
ガサガサと音がした。右に目をやると野良犬がいる。校庭の水飲み場に放置されている雑巾みたいな犬だ。ペットショップに十五年間買われずにいたような、捻くれた目でじっとこちらを見ている。なんだかばつが悪くなり、おれは目をそらす。そらした先にまた犬がいる。
さっきの犬より幾分マシだが、放置されてる場所が外か内かの違いだけで、汚い雑巾には変わりない。そいつもおれを見ている。ふと周りを見渡すと、ボロ雑巾が何十頭もおれを見ている。雑巾犬に囲まれている。そして雑巾犬たちは、背の低い草に埋もれるように座ってる。何かの畑のようだ。つまりおれは、畑のど真ん中で犬に囲まれているのだ。緑の葉と小さな白い花をつけた草が、見渡す限り茂っている。
ふいに気づく。蕎麦だ。ここは蕎麦畑なんだ。
蕎麦畑に四つん這いになっているそいつが問う。
お前、犬は好きか?
了