ものすごい悪女を想像して読んだのだけど。
つやという女の人をめぐるオハナシ。
「つやのよる」 井上荒野著
どんな悪事のあれやこれやが語られるのかと
思っていたら、当人はもう末期がんで死の床に。
最後の夫・松生がつやを看取りながら、関係のあった
男たちに連絡していく。
その男たちの周辺にいる女たちから見たつやが
描かれるというとても面白い視点。
なので、そんなに彼女のえぐい部分はなく、大変
マイルド。ある意味、つやの輪郭ぐらいしか見えない。
松生はさんざん浮気?された現夫としての愛憎が
あるわけでもなく、まぶしくても見ないではいられない
太陽を観察するようにつやを見ている。
しかしこの感情は意外と正しいのかも。
つやは自分の欲望に正直だ。何か千人切りみたいな
強迫観念とか精神的なトラウマがあった事も匂わせて
はいるが、堂々と男漁りしているように見える(笑)
しかも、夫がそばにいるとはいえ、まさに野垂れ死に
に等しいような哀れな最後だ。
そこそこ遊んで家庭に入って、昔は私もね・・なんて
うそぶく女なんかになってたら、逆に憎さ倍増だけど
このオソロシイまでの純粋と凄絶さ。
共感なんてしないけど、見つめないではいられない
魅力?を持ったヤツだったのだろう。
夫をつやに取られた妻、父を取られた娘、恋人が
つやにストーカーされた女・・
彼女たちも息をつめてつやの最後を思う。
そしてみんな
死んだつやを踏みつけにして、先へ進んでゆく。
あっぱれな女じゃない?