「ブラッド・スクーパ」 森博嗣著 メインになる戦闘場面が
3回。ゼンのココロとは裏腹に、血は流される・・が・・
「ヴォイド・シェイパ」の時とは違い、より物語性が深まってゆく。
前は、精神性を追求した感があったが、今度はゼンが次第に
現実世界に巻き込まれていく分、ずっと読みやすくなっている。
無垢だったココロにも、世間はいやおうなく関わってくる。
それでも見所はやはり戦闘のシーン。
スカイクロラでも思うけど、戦闘シーンがなんて美しいんだろう・・。
その、ギリギリの切羽詰った戦いがまるで詩のように描かれる。
1回戦、黒い侍キダとの戦い。
ゼンは容赦なく手下から倒す。刀の切っ先の向き、相手の重心
息使い・・すべてで動きを読む。
刀は当てず、身体のみを切るスズカ流。
戦いの後、キダの覚悟を感じるゼン。
2回戦、13人の盗賊を切った後、頭目バサカとの戦い。
暗闇の中、二刀流との立ち合い。休むことなく刀を繰り出してくる
相手。鳥が舞うようにひらめく刀。攻めるだけの刃はしかし
体力を奪う。いかに体力を温存しつつ攻めるか・・。
やがては、自らの血を掬う者となるバサカ。
3回戦、本書最強のクズハラとの戦い。
相手に筋は読まれ、さらに自分より腕前も上だ。
しかし、クズハラは自身を信じすぎている。ゼンは考える。
いや、考えるから読まれる、と。カウンター狙いで、新しい筋を
編み出す事がベストか。
ダルビッシュみたい。試合中に新しいフォームを作っちゃう。
あとに出るのは遅れる分不利だが、ゼンの剣はやや長い。
そこに活路が・・・。
どれも息詰まる、ぎりぎりの鮮やかな戦い。
命のやり取りの後、戦闘中の太刀筋を反芻するゼン。
戦いは、彼を変える。
どう変わっていくのか・・。
しかし剣の道はべつとして、世の中の事を学んでゆくのは、
彼にとってじつは不幸なことではないのか。
いづれは、カシュウのように山に戻る日が来るのかも。
あるいはその前に・・・。