ブログ小説「君のいない未来へ」
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藤井 孝也 : この物語の主人公
小林 朋美 : クラスメイトで彼女
あやちゃん : 孝也が片思いしている子
県立栄城高校 → 県下有数の進学校
このお話は1990年代
孝也の青春の葛藤と成長を描いた物語です。
第17話 運動部志望
バスケ部の練習に参加するようになってから、孝也は初心者としてドリブルだけの限定メニューをこなす日々が続いていた。
初心者の孝也は当然だが全体練習に参加するにはまだ早いと判断された。
ドリブルやシュートも満足にできない孝也が練習に入ると足手まといになるのは間違いなかった。
「全体練習に参加できるのはいつになるんだろう…」孝也は体育館の片隅でドリブル練習をしながら一人思うのだった。
運動するのは嫌いじゃないが、バスケ部の練習時間に縛られると、あやちゃんに会うチャンスが減ってしまうのではないかと心配だった。
運動部に入ることが進学の条件。
なんともおかしな条件だが、これは孝也の父親が孝也を進学校に進学させるために出した条件だった。
父親はもともと、孝也が進学校に進学することを望んでいなかった。
彼は近くの公立高校、那賀高か相山高に通わせ、家の商売を手伝わせることを考えていた。
孝也が中卒でも構わないという考えすら持っていた。
孝也が栄城高校に合格したとき、父親はすぐには了承しなかった。
父親は「俺の子がこんなに勉強できるわけがない」と、母親の浮気を疑ったほどだ。
しかし、親戚一同が「栄城高校に合格できるなんてすごいじゃない、絶対行かせるべき」と父親を説得した。
中途半端な私立の進学校だったら、そもそも高校にすら行かせてもらえなかったかもしれない。
孝也の父親は脳筋体育会系で、藤井家は代々スポーツで他を圧倒しないといけないという家柄だった。
孝也の2歳上のいとこも足には自信があり、近くの県立那賀高校に通いサッカー部の俊足フォワードとして県内では有名だった。
だが、孝也は足が遅い。
これも、父親が自分の子ではないと思ってしまった要因の一つだった。
「競争で1番になれない子は俺の子じゃない、誰の子だ!」
甲子園を目指す、国立競技場を目指すというスポーツの強豪校への進学だったら、喜んで行かせてくれただろう。
孝也は小学生のとき、事故で複雑骨折し、生死をさまよう手術を受けたことがある。
そのときの手術の際、血液検査で孝也がAB型であることが判明したとき、父親は「O型の俺からAB型の孝也が生まれるわけがない」と、母親を問い詰める大騒ぎを起こした。
だが、輸血の可能性があるために父親と母親の血液検査も行われ、実際には父親がB型であることが判明した。
父親はずっと自分がO型だと思い込んでいたのだった。
この件で病院内で騒ぎを起こした父は、看護師長さんにこっぴどく叱られたという。
孝也はそんな父親のことを思い出しながら、バスケ部での自分の立ち位置について考え続けた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
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