Inside the Battle with Temptation <煩悩との戦い>

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ブログ小説 「再開その日まで」
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第一章「君のいない未来へ」もよんでね 

今日はこの曲

罪十罰 「Brrrrrreak It」

 

 

 

 

キュッとバッシュが木床を噛む甲高い音が、熱気の籠もる体育館に響き渡った。

ベンチからコートへ戻る孝也の足取りは、冷静そのものだった。インターバルを終えたばかりの体からは湯気が立ち上り、皮膚の火照りが心地よい緊張感を伴っている。

Bチームが体を張り、意図的なファウルで時計を止め続けたことで、孝也の出場時間は十分に確保されていた。相手の攻撃リズムを断ち切り、意思統一されたファウルも厭わないチームディフェンス。その泥臭い泥沼のディフェンスは、確実に成果を上げていた。

後半残り13分。スコアボードには圧倒的な23点リードが刻まれている。この最高の状況で、満を持してレギュラーメンバーがコートへ投入された。

相手のチームファウルが7つ目を数えた瞬間、審判の笛が鳴り、フルメンバーチェンジが告げられる。ここからのディフェンスファウルは、すべて相手にフリースローを与えることを意味していた。コートに足を踏み入れる直前、清水監督から与えられた細かな戦術指示が、頭の中で鮮明に組み立てられていく。

「喜多、あれをやるぞ!」

孝也が疾走しながら叫ぶ。

「マジ!?」

喜多が目を見張り、不敵な笑みを浮かべた。

「鎮西は混乱している。ここで一気に戦意を折るぞ」

コートに戻った栄城の面々が放つ空気が、一瞬で切り替わる。試合のテンポは、それまでの怒濤の早いトランジションから、相手の思考の迷いを誘うような重厚なスローペースへと緩やかに変化していった。

鎮西にとっては、久々のセットオフェンスだった。トップの位置でボールを保持するポイントガードの浜田が、焦色を孕んだ瞳で栄城の陣形の隙を探る。

だが、中央に鎮座する孝也の感覚は、すでにコート全体を完全に包み込んでいた。高感度センサーのように四方に張り巡らせた集中力で、ハーフコートの空間、選手の重心、呼吸のタイミングまでを俯瞰して捉えている。

1-3-1ゾーンディフェンスの形は、微塵も崩れない。

浜田の視界には、どこへパスを出しても孝也の影に鋭く奪われるような、不気味な幻影が纏わりついていた。思考の網に捕らわれ、息苦しさに胸を圧迫された浜田は、観念したように単独で中央へ侵入してくる。直線的なパスを完全に諦め、サイズ差を利用して届かない頭上での勝負を仕掛けてきた。

ふわりと上がったロブパスが、インサイドのセンター徳永の手元へと届く。

徳永はディフェンスの圧力を振り払うように、力任せにジャンプシュートへ跳び立った。高い打点から放たれたボールは、激しくバックボードを叩き、吸い込まれるようにリングを潜り抜ける。

「よっしゃあ!」

鎮西ベンチから割れんばかりの歓声が上がった。なり振り構わぬパワープレイこそが有効だという戦術へと、彼らの意識が傾いていく。

「やっぱりな、栄城相手にどのチームも最終的には個人技頼りのパワープレイになる」

ベンチで腕を組む宮城が、冷ややかな視線で呟いた。

「しかし、鎮西の監督としては点は取っても負けだな。連携も戦術もない、ただの力任せのバスケだ」

栄城のオフェンス。

後藤が床を確かめるようにゆっくりとドリブルをつき、盤面を整える。冷徹な計算のもと、試合の時間を静かにコントロールしていく。

次の瞬間、後藤は緩急をつけた鋭いステップで左サイドへドライブを仕掛けた。鎮西のインサイド陣が過剰に反応し、守備の意識が大きく左側へと圧縮される。

ハイポストへ孝也がすっと侵入するのを視界の端で確認し、後藤は寸分狂わぬパスを通した。ボールを受けた孝也は、滑らかなシュートフェイクを一発入れる。見事に反応した相手ブロッカー一人が空中で泳ぐ。孝也はそれを冷静に見送り、さらに左からインサイドへと深く切り込んだ。

その瞬間、空いた右ゴール下へ喜多が爆発的な踏み込みで跳躍する。

孝也も同時に空中へと身体を躍らせ、シュート体勢に入った。誰もが孝也のジャンプシュートを確信したその刹那、彼はシュート動作を囮にし、空中で体勢を捻りながら鋭く速いパスを喜多の頭上へと通した。

ガシャン!!

空中でボールを掴んだ喜多が、そのままリングを破壊せんばかりの勢いで豪快なダンクを叩き込んだ。

「何が起きた??? 普通のアリウープじゃねえぞ!」

体育館の空気が一瞬で凍りつき、直後に地鳴りのようなざわめきが広がった。

歓声の渦の中、喜多と孝也は無言で視線を合わせると、パチンと力強いハイタッチを交わして自陣へと戻っていく。

「栄城の4番、先に跳んだよな? 跳んだあとで、空中であのパスを通したのか……?」

観客席で戦況を見つめていた湘北の安田が、信じられないものを見たように呟いた。

「バレーボールのBクイックみたいだったわ……」

隣でスコアブックを抱える彩子が、息をのんで呟く。

「あいつら、とんでもねえことしやがった。とても全国初出場の器じゃねえぞ」

静かな興奮と絶望が交錯するコートで、栄城の冷徹なバスケが、相手の心を確実にへし折り始めていた。

 

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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