いつもきれいな仮面をかぶっている人がいました。
周りに笑っていてもらえるように、おどけて明るく振舞っていました。
素顔ははっきりしないけれども、その人といればおもしろおかしく、みんな笑顔がこぼれます。その人は町のみんなからの人気者でした。
そんな毎日が過ぎる間、その人は家にいても自分の仮面を外すのが怖くなってきました。もともとは自分の素顔を見せるのが恥ずかしく、また醜い自分がみられたくなかったのですが、どんな時でも本当の自分を見られるのが怖くなってきたからです。
町のみんながどれほど落ち込んでいても、その人は笑顔を振りまいていきます。
自分にも、他人にも、辛いこと、悲しいことがあっても笑い続けます。
いつのまにか町の人々は、笑ってばかりいるその人のことが気味悪くなり、少しずつ離れていくようになりました。
その人は町はずれの湖のほとりに住むようになっていました。
もうほとんど人と顔を合わせることもありません。
お月さまがきれいに輝いている晩に、ふいにその人はずっとつけ続けていた仮面をはずしてみたくなりました。
おそるおそる仮面から見えた自分の素顔を湖に移し、その人は驚きました。
顔は以前よりももっと醜く、大きく嗤うかのように歪んでいたのです。
気がつけば、いつものように大声で嗤いだしました。
空に浮かぶお月さまに惹かれて、花売りの女の子が夜の散歩にでかけていましいた。
きっと湖に映るお月さまも奇麗だろうと、きれいなお花も見つかるだろうと湖のほとりへと、気の向くままに歩いていきます。
不意にどこからか大きな笑い声が聞こえてきました。
聞こえた瞬間は気味が悪くて、そのまま家に帰ろうとしましたが、その笑い声はどうにも悲しんでいるように聞こえます。
気になった女の子は、意を決して声のする方に向かいました。
湖近くの声が聞こえる辺りから、誰かが身を震わせて立ち尽くしています。
「どうしたのですか?」
思わず声をかけていました。
振り返った人の顔を見て、女の子は驚きました。
嗤いながら涙を流しているのです。
男なのか女なのか、若いのか年寄りなのかもわかりません。
ただただ、その人は笑いながら涙を流し続けます。
不意に崩れ落ちるように膝をつくその人の頭を、女の子は抱きよせ、一緒に涙を流しました。
泣き疲れてともに眠るまで、二人はそこで泣いていました。
ある日から、花売り女の子は見かけない顔の人が、よく花を買いにきてくれるようになりました。
その人は、にっこりほほ笑んだ顔をしていますが、男なのか女なのか、若いのか年寄りなのかもわかりません。
けれども、静かに微笑んでいます。
つられて女の子も微笑み返し、いつものようにお花を包みます。
その人はゆっくりとお辞儀をして花を受け取り、町のどこかへ消えていきました。
