私には、霊感というものはありません。
長く看護師として医療現場にいましたが、
霊的なものを見たり、体験したりすることはありませんでした。
そういう話を聞いたことはありますが…
そんな私が、一度だけ不思議な体験をしたことがあります。
人によっては、
「ふーん」という程度のことかもしれません。
その体験とは…
🌿 🌿 🌿
私が管理夜勤をしていた頃のことです。
その夜勤の業務のひとつに、
病院で亡くなった方のご遺体を病院からお送りする、
いわゆるお見送りがありました。
通常は、その方が入院していた病棟の看護師、担当医と一緒にお見送りをします。
当時、私が所属していた病院には
高度医療を担う救命救急センターがありました。
救急車が立て続けに来たときなどは、
お見送りが私ひとりになることも、たびたびありました。
その日も、そんな夜でした。
記憶が少しあいまいですが、
患者さんは身寄りのない方で、
40~50代の男性でした。
心肺停止で救急救命センターに搬送された方で、
外因死として警察が介入していたため、
検視の後、警察車両でのお見送りでした。
あれは、確か初夏の夜明け前。
患者さんが車に搬送されるときです。
どこからともなく鳩が飛んできました。
その鳩は、
ご遺体を乗せた警察車両の屋根に留まりました。
すると、1羽、2羽と、
次々と鳩がやってきます。
気がつけば、
車の屋根は鳩で埋め尽くされていました。
「え、何?
鳩って、こんな暗い時間に飛んでるの?」
目の前で起こっていることに、
私はただ驚いていました。
私は鳩が好きではありません。
それなのに、そのときは、
何とも言えない不思議な荘厳さを感じました。
「この患者さんは鳩に餌でもあげていたのかな」
そんなことを思いました。
そして、車が走り出すと、
鳩も一斉に飛び立ちました。
どう見ても、
そのときの私には、
鳩が故人を見送っているようにしか思えませんでした。
だんだんと空が白んできました。
全く知らない患者さんなのに、
なぜかその人の存在を、ほんの一瞬、
身近に感じたような気がしました。
そう、心が温かくなるような…
心の中で、
「サヨウナラ」
そう呟いていました。
🌿 🌿 🌿
もしかしたら、
私は、とても貴重な瞬間に立ち会ったのかもしれない。
そんなふうに思った出来事でした。
あの出来事がただの偶然だったのか、
何か意味のある出来事だったのか、
私にはわからないけれど—
ただ、夜明け前の空の下、
鳩たちが一斉に飛び立っていったあの光景は、
今でも静かに心に残っています。



