―流れに導かれた私の選択

 

人生には、あとから振り返ったときに

「あの流れは必然だったのかもしれない」

そう思える出来事があります。

 

宿舎暮らしの終わり。

転勤の気配。

何気なく選んだ賃貸。

 

その先に、思いがけない“出会い”が待っていました。

 

 

🌸   🌸   🌸

 

 

宿舎生活と、ひとつの区切り

 

長年、単身赴任の宿舎で暮らしてきました。

そしてシングルとなり、まもなく転勤というタイミング。

 

「そろそろ東京ともお別れだな」

 

単身赴任中は、

週末ごとに地方の家に帰っていたため、

東京での時間を十分に味わえていない―

そんな思いが、どこかに残っていました。

 

 

東京を楽しみ尽くすと決めた

 

 

せっかく東京にいるのだから、思い切り楽しもう。

 

そう決めてからは、

パンケーキを食べ歩き、カフェを巡り、

美術館へも足を運びました。

 

そんな日々の中で、ふと浮かんだのです。

 

「やっぱり東京は、私の暮らしに合っている。

できることなら、このままここにいたい」

 

転勤になっても、通勤圏内なら残れるかもしれない。

そう考えたことが、賃貸マンションを探すきっかけになりました。

 

 

 

 

 

なぜか「錦糸町に」決めていた

 

 

宿舎を出ると決め、家探しが始まりました。

 

不思議なことに、エリアは迷いませんでした。

 

「錦糸町に住もう」

 

理由は説明できません。

けれど、なぜかそう思ったのです。

 

物件探しは驚くほどスムーズに進み、

新しい暮らしが始まりました。

 

 

コロナ禍で届いた一枚の広告

 

 

外出自粛が始まった頃の転居。

家で過ごす時間は思いのほか快適でした。

 

そんなある日、

ポストに一枚の分譲マンションの広告が入っていました。

 

やわらかなイラストと写真。

女性向けに丁寧に作られた紙面。

 

購入する気など、まったくありませんでした。

離婚により地方のマンションの住宅ローンの清算をしたばかり。

 

「これからは賃貸でいい」と決めていたからです。

 

それでも、気分転換のつもりで、

「少し見てみよう」

近隣だったこともあり、内覧を予約しました。

 

 

「ここに住みたい」と思った瞬間

 

 

モデルルームに入った瞬間、

 

—ここが、私の家だ。

 

そんな感覚がありました。

 

定年間近。

頭金もない。

離婚の際の出費で、貯金もほとんど残っていない。

 

それでも不思議と

「ここに住むことになる」

そんな確信があったのです。

 

住宅ローンは問題なく通過しました。

返済は80歳を超える予定ですが、不思議と不安はありませんでした。

 

自分でも驚くほど、迷いがなかったのです。

 

 

半年後の転勤、それでも

 

 

宿舎から賃貸へ転居して半年後、

私はこのマンションに引っ越しました。

 

「好きな物だけに囲まれて暮らす」

 

それをテーマに小さな空間を整えていきました。

 

けれど、さらに半年後、転勤が決まり、

ゆっくり過ごす時間は思ったより短いものでした。

 

それでも—

 

 

 

 

帰ってくる場所がある。

ふるさとのように感じられる部屋がある。

 

それだけで心は満たされていました。

 

 

意味のあったすべての選択

 

普通に考えれば、

賃貸に引っ越してすぐに分譲を購入するなんて、

無駄に思えるかもしれません。

 

けれど、

あのとき錦糸町の賃貸に住まなければ

このマンションには出会えなかった。

 

そう思うと、

どの選択にも意味があったのだと感じています。

 

コンパクトで、決して広くはないけれど、

私にとっては最高に落ち着ける、大切な場所。

 

それが今の私の家です。

 

 

🌸   🌸   🌸

 

 

振り返ってみると、

大きな決断も、何気ない選択も、

すべてが静かにつながっていました。

 

理由は説明できなくても、

心が動いた方向に進んだこと。

 

その積み重ねが、今の暮らしへと続いています。

 

“人は、自分が思っているよりも、ちゃんと自分の道を選んでいる”

 

そんなことを感じた出来事でした。

 

ーゆるやかな時間が、次の扉を連れてきたー

 

 

退職後、

私は「何かを始める」ことよりも、

まず「ゆっくり過ごす」ことを選びました。

 

朝はコーヒーを淹れ、

散歩をして、

読みたかった本を開く。

 

友人と平日にランチを楽しむ。

 

それまでの私にはなかった、

時間に追われない日常。

 

けれどその穏やかな時間の中で、

少しずつ、

心の奥にある思いも動き始めていきました。

 

 

🌸  🌸  🌸



ゆっくりと流れる、退職後の日常

 

退職後の毎日は、

思っていた以上に心地よいものでした。

 

朝はゆっくりコーヒーを飲み、

気が向けば散歩へ出かける。

 

本を読み、

友人と平日にランチを楽しむ。

 

「時間に追われない暮らし」が、

こんなにも穏やかな気持ちを

連れてきてくれるとは思ってもいませんでした。

 

やりたいことに触れてみた時間

 

興味のあったことにも、

少しずつ挑戦してみました。

 

退職前から関心のあった

電子書籍出版の学び。

 

ライティング講座にも参加しました。

 

けれどーー

 

課題の記事を書かなければ、と思うほど、

気持ちが追い付かなくなり、

途中で手が止まってしまいました。

 

数秘術の講座も受講しましたが、

それを仕事にしようとは思いませんでした。

 

ただ、

「学ぶこと」そのものは楽しく、

次への興味へと自然につながっていきました。

 



 

小さく芽生えた、収入への焦り

 

失業保険の支給が終わる頃、

少しだけ焦りも生まれました。

 

収入がまったくない状態。

 

「何かしなければ」

そう思い、クラウドソーシングサービスに登録。

 

WEBライター初心者として、

仕事を受け始めました。

 

初めて得た「書いて稼ぐ」経験

 

一記事500円。

 

金額だけ見れば、

かなり低く効率の悪い仕事です。

 

それでもーー

 

自分の書いた文章に

報酬が発生したことが、

素直にうれしかったのです。

 

その後、

同じクライアントから継続依頼を受け、

単価も少し上がりました。

 

けれど次第に、

 

「この内容でいいのか」

「初心者だから安く利用されているのでは」

 

そんな不安や違和感も生まれてきました。

 

そして私は、

仕事として書くことを、

いったん手放すことにしました。

 

それでも「書きたい」は残った

 

お金を稼ぐためというより、

 

私は、

「自分の書きたいことを書きたい」

そう思っていることに気づきました。

 

テーマを与えられるより、

自分の内側から出てくる言葉を

大切にしたかったのです。

 

あの経験は、

「書く」スキルを学ぶよい機会でしたが、

それよりも、

自分の本音を知る時間となりました。

 

友人のひとことがくれた許可

 

秋が近づいた頃、

「そろそろ働こうかな」

そんな思いもよぎり始めました。

 

何気なく友人に話したとき、

返ってきた言葉はーー

 

「いままでよく頑張ってきたんだから、

1年くらいのんびりしてもいいんじゃない?」

 

そのひとことが、

不思議なくらい心に残りました。

 

ああ、これはーー

私の本音かもしれない。

 

正直その頃、

まだ動きたくはなかったのです。

 

そして、仕事を始めようと思えた日

 

年が明け、2月。

 

不思議と、

「働こうかな」

そんなタイミングが訪れました。

 

退職当初は、

前職とは違う分野で働こう、

本当に自分に合った仕事があるはずーー

そう思っていました。

 

そんなとき、

元同僚とのランチで、

前職の資格を活かしながらも

まったく異なる働き方があることを知りました。

 

「そんな仕事があるんだ」

 

そして直感的にーー

「これだ」と感じたのです。

 

流れに乗るように決まった転職

 

ちょうどその頃、

LINEで目に入った転職エージェントの案内。

 

たまたま元同僚が

勧めてくれていたサービスでした。

 

気になって登録すると、

担当者がとても丁寧に対応してくれました。

 

希望に合う求人を紹介され、面接へ。

 

時間はかからず、

採用が決まりました。

 

非常勤という働き方。

アクセスも人間関係も良好。

 

無理なく続けられる、

今の職場との出会いでした。

 

 

🌸  🌸  🌸

 

 

1年間、

あえて答えを急がずに過ごした時間。

 

そのおかげで、

 

気持ちに余裕が生まれ、

やりたいことを試し、

働き方も選び直すことができました。

 

仕事は、

生活を支える大切なもの。

 

けれどーー

 

生きがいは、

必ずしも仕事でなくてもいい。

 

そう思えるようになったことも

大きな変化でした。

 

立ち止まった時間は、

決して遠回りではなく、

 

次の扉へと

静かにつながっていたのだと思います。

 ―ずっと働くと思っていた私が、立ち止まる時間を待つまでのことー

 

 

私は、定年後も常勤で、

働き続けるつもりでいました。

 

働かなければ、生活が成り立たない。

そう思っていたからです。

 

けれど結果的に、

定年後の1年間は仕事をせずに

自由な時間を過ごすことになりました。

 

好きな本を読み、

興味のある講座を受け、

自分の「やってみたい」を試す日々。

 

振り返ると、

とても充実した1年でした。
 

なぜ私は、

経済的な見通しが十分とはいえない状況で、

働かない選択をしたのか——

 

その始まりは、

思いがけない「時間の余白」でした。

 

 

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働き続けるのが当然だと思っていた

 

私は離婚後、ひとりで生活しています。

定年も近づき、経済的な不安は常にありました。

 

ただ、定年後も需要のある資格職で働いていたため、

「働きさえすれば何とかなる」

そんな感覚もありました。

 

だからこそ、働き続けるのは当然。

 

住宅ローンを抱え、

“のんびり過ごす“という選択肢は、

当時の私にはまったく浮かんでいなかったのです。

 

 

地方勤務で生まれた“時間の余白”

 

定年を間近に控えた頃、

私は転勤で、東京とは気候も空気も異なる地方にいました。

 

その土地での働き方は、

朝早くから夜遅くまで働いてきた私にとって、

拍子抜けするほど時間にゆとりがありました。

 

仕事の責任や、

慣れない土地でのストレスもありましたが、

 

「時間がある」という事実が、

自分に向き合う余白を生んでくれたのです。

 

 

 

 

ふと浮かんだ、小さな問い

 

本を読んだり、動画を見たり。

知らない土地でも楽しみを見つけられるようになりました。

 

そんなある日、ふと――

 

「私、このままでいいのかな?」

「もっとやりたいことあるんじゃない?」

 

小さな問いが、

心に浮かび上がってきたのです。

 

 

第2の人生の“自分探し”が始まった

 

そこからは、

私の“自分探し”が始まりました。

 

SNSで見かけた情報の中から、

「気になるものはやってみよう」

 

そんな気持ちが自然と湧いてきました。

 

電子書籍出版プロデュース、

webライター講座など―

 

新たな趣味として、

何かを得られたらいい。

 

そんな軽い気持ちで、

学びの扉を開いていきました。

 

 

なぜか、「書く」ことに惹かれていった

 

不思議なことに、

私は“書く”ことに強く惹かれていきました。

 

決して文章が得意というわけでもないのに。

 

何がしたいのかは、まだ分からない。

それでも——

 

「書きたい」

 

そんな思いだけは、

はっきりとありました。

 

「これが仕事につながったらいいな」

そんな淡い期待も抱きながら。

 

もちろん、

簡単に形になるものではありません。

 

それでも、

“書く”ことに限らず、

 

「何かを始めたい」

その気持ちは、

少しずつ確かなものになっていきました。

 

そして私は、

定年後の半年ほどは、

ゆっくり好きなことをしてみようと決めたのです。

 

生活費は、

退職金や失業保険で賄う。

 

以前の私なら、

ローンを抱え、仕事をしない選択など、

考えもしなかったでしょう。

 

 

退職の日、込み上げた感情

 

退職の日の喜びは

今でも忘れられません。

 

「これで自由になれる」

 

そんな解放感に包まれ、

胸がいっぱいになっていました。

 

長く走り続けてきた私にとって、

その日は、

人生の大きな節目でもあったのです。

 

 

🌸  🌸  🌸

 

 

退職後、

東京の家に戻り、

新しい生活が始まりました。  

 

自由でゆとりのある時間。

その心地よさに幸せを感じながらも、

 

収入がないことへの不安が、

まったくなかったわけではありません。

 

それでも——

 

大好きな部屋で、

朝のコーヒーをゆっくり味わう。

 

そんな暮らしを、

私はずっと夢みてきました。

 

満ち足りた、ひとりの時間。

 

そしてこのあと、

私はさらに「立ち止まる時間」を

深めていくことになります。

 

次回は、

その1年で見えてきたものについて、

書いていこうと思います。