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場所:オンコロジストX先生の診察室
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言語:英語(とフランス語の単語が時々)
X先生:「シツモンは?」![]()
蘭翠:「アリマス。医学の進歩で髪の毛は何とかならないのでしょうか?」![]()
X先生:「残念ながら、脱毛を抑える薬はありません」
蘭翠:「なぜですか?」
X先生;「体中のどこかに潜んでいる『かも』しれない目に見えないがん細胞を殺すのが化学療法の目的そのものだから、その副作用として全身にある毛にダメ―ジが及ぶのは仕方がない」
蘭翠:「毛が『体中』から全て抜けるんですか?」
X先生:「人によって程度はさまざま。でも必ず薄くはなるでしょう」
だいたいこういう会話だった。この時初めて、眉毛とまつ毛も抜けることに気づいた。![]()
家に帰ってすぐにネットにしがみついた。ネット検索でヒットするカツラやターバンのサイトでは、小顔でカッコよい人達がモデルなので、眉毛やまつ毛はしっかりあるように見えた。どうもイメージがつかめない。![]()
わたしは頭が大きく、亡き父親譲りのまっすぐな剛毛で、かつ量が多い(多かった)。X先生作成の説明書には、オレンジ色の抗がん剤FEC第1回目から16-17日後に髪が抜けるので各自「心の準備」をするべき、と注意書きがついている。確かにこれだけの量のわたしの剛毛が大きな頭からバサッと抜けると気味が悪そうだ。![]()
そこで注意書きに従って「心の準備」を始めることにした。しかし、具体的な対策は「各自」なので、またネット検索。そこで目にとまったのが、早めに美容院にいって超ショートカットまたは丸坊主にしておくと、髪が抜け落ちる時の精神的ダメージが軽減されるという旨の記事だった。掃除をするのも楽だと書いてあったような気がする。まさにわたしの剛毛向けだ。
16日目まで日数があるけれど、「善は急げ」「心の準備」と唱えながら近所の美容院に入った。![]()
「いらっしゃいませー!」![]()
「あのーカットを、あのー出来るだけ短く、それから・・・・」
突然、見ず知らずの人に告白したい気分になった。![]()
「実は、わたし、『キモセラピー』を始めたんです」
ワッ、言っちゃった!![]()
「だから、抜ける前に超ショートにしたいなと思って・・・・」
美容師さんがニッコリ笑って言った。
「カツラ屋さんがバリカンで一気にやってくれるわよ」
わたしは「バリカン」にビビったが、相手は動揺の気配が全くない。
「もうカツラ屋さんには行った? 髪が抜け始めてからだと本来のあなたのイメージがつかめなくて、カツラ屋さんが困っちゃうわよ」
美容院の従業員はこんな事を知っているのか。世の中にがん患者は増えていると聞くから、日常茶飯事とは言わずとも普通の事なのかもしれない。
結局こういう立ち話しだけして、美容院を去った。超ショートカットにする決心もつかず、バリカンと直面する勇気もなく、悶々とした気分で家に帰り、ふてくされて寝た。![]()
つづく
