「会社を辞めるのやめてもいいですか」

翌日、出勤早々に泣きながら言う私に対し
上司たちは暖かく受け入れてくれました。

本当はもう少しで寿退社をするはずだった会社。

「これから治療とかしていくとなると、延期といえどもいつ結婚できるかわからない。
だから会社もできることなら.....」

「わかったよ!明日会社に言う!
多分大丈夫だから!だから彼くんはなにも気にしないでね!」

今の彼に心配をかけてはいけない。
彼の負担になってはいけない。

けれど、会社を辞めない理由「彼が癌になった」というのをいざ口に出すと、それを認めてしまう気がして怖かった。
心のどこかでは、まだ嘘だと思っていたかったんだと思う。


理由は聞いて驚いていた上司たちの口からすぐに叱咤激励が返ってきた。

「まだ陽性か悪性かも詳しくわからないんだから、花さんがしっかりしないと!」

「これから支えていくんでしょ?愛情の見せどころでしょ!」

泣きながらみんなの言葉に頷く。

そうだ、私がしっかりしないと。
私が泣いてちゃダメなんだ。
一番辛いのは彼なんだから。
頑張らなきゃ頑張らなきゃ頑張らなきゃ、彼は絶対絶対大丈夫だから。

そう自分に言い聞かせた。
この時から少しずつ、私の身体にも異変が起きてきた。
大丈夫
絶対に彼は大丈夫
そう信じてるのに、夜、電気を消してベッドに入るとものすごく怖くなる。
泣きたくないのに泣けてくる。
日中も、仕事をしてれば大丈夫な時間が多い。
職場の人も、なにも言わないけど気をつかってくれてるのがわかる。
本当にありがたい。
けど最近、真っ黒な丸の中に自分が飲み込まれていく感覚になるときが多々ある。
夢なのか妄想なのか、なんかのかわからない。
なんで強くなれないんだろう
悔しい

お願いします
彼の病気が完治しますように。
これから10年20年50年
一緒に生きていけますように。
お願いします
まだ時間は早かったはずなのに、あいにくの曇り空で空は真っ黒だった。

「せっかく紅葉綺麗なのに曇りやねー。」
「そうだねぇ、暗いね。」

「あ!もう彼くん、ちゃんと前見て運転しなきゃ危ないよー!」

なにもない、紅葉が綺麗な田舎の田んぼ道。
少しよそ見をした彼の左手を軽くひっぱる。

「.....このままふたりで心中するのも悪くないかもなぁ。」

彼は冗談でつぶやいた。

「....うん、そうだね。」

私は本気でそう応えた。

もしも彼がいなくなったら、私はにはこの先なにがあるんだろう?
何をすればいいんだろう?
どう生きていけばいいんだろう?

運転する彼の横でずっとずっとそんなことばかりが頭の中をぐるぐる回っていた。


一通り運転して、とりあえずまた私の家に帰ってきた。
「はぁー、親に言うの嫌だなぁ。
父さんは大丈夫だけど、母さん絶対泣くしなぁ。兄ちゃんには先に電話で言ってあるけど。」

「そうだよね、おやすみ言うの嫌だよね。
けどとりあえず私も自分の親に言うね、4日後の顔合わせも一先ず延期にしよう。」

「うん、ごめんね。」

「なーに言ってんだい!大丈夫だよ!
彼くんには私という女神がついているんだから、絶対治るよ😁」

「おぉ、そうか(笑)」

それから小一時間くらい、彼の左手をスマホでなんか変なゲームをして遊んだ(笑)
私の下手さっぷりに彼はゲラゲラ笑っていて、最終的に涙を流して笑っていた。

一番辛いのは彼なんだ。
けど、前向きに頑張って治そうとしている。
それなのに私がへこんでてどうするんだ。
絶対に私が彼を助けるんだ!!!!

私はこのとき、強くそう決意した。