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 鈴原が家に押しかけてきた日から、実に一ヶ月が経とうとしていた。僕と鈴原はその日中にアメンバー申請をし合い、なうでしばしば会話をしてその仲を繋ぎ留めていた。
 あと二週間ほどで鈴原の誕生日だそうだ。別にプレゼントを期待して向こうから申告してきたのではなく、普通にプロフィールに載せていた。
「……八月かぁ」
 空気に向かって呟く。
「………」
 女って、夏に何が欲しいのだろう。正確には夏の終わりか。いや、八月とは言え初旬なのだから、半ばと言うべきか? どちらにせよ、例えば水着とかいうのは色んな意味でまだ早いから却下だろう。
 ………うーん。
 思考回路が単線すぎて自分で驚いた。このままでは鈴原の水着姿を妄想して身悶えかねないので、いったん思い巡らすのを中止する。
 余っていた麦茶を飲み干して、薄い色のパーカーを羽織る。履き古したスニーカーを突っかけて、ドアを開けてみた。外気を吸い込む。今日は何となくいつもより涼しい気がする。
「……けほっ」
 室内の汚れた空気で少し喉の調子がおかしいようだ。やはり外に出た方が良いだろう。
 現在午後3時28分。買い出しはいつも午前11時50分に行くと特に意味もなく決めているし、バイトは深夜なので、こんな時間に外出するのは大学卒業以来である。
 昼前にはいない猫が午後の涼気に欠伸をしている。夏の暑さには猫も弱いようでファミリーレストランの建物の陰に入っており、ただでさえいつもより涼しいのに本当に気持ちが良さそうだ。
 駅前に出ると、思ったより人がいた。この時間だと、ちょうど地元の小学生の下校時間と被っているらしく、赤黒その他ランドセルが塊になってあちこちに散らばっている。これから友達と約束があるのか、忙しない早足で家路を急いでいる子供もいた。この時期だと、割と半袖半ズボンといった何とも小学生然とした出で立ちの子供が多い。若いなぁと老人のような目で子供たちを追い、駅構内に入った。
 昨年出来た小さめの駅ビルには、これまた小振りなスーパーマーケットや雑貨屋、本屋やレンタルCD屋などが入っており、意外と退屈しない。最近新しく入ったドコモショップでは若い女の子たちが忙しそうに動き回っており、非常に目の保養になる。その向かいに位置する本屋に入ると今週の人気ランキングが一面に並べてあり、自己主張の激しいハードカバーの表紙が無駄に目を刺激した。
 レジを通り過ぎて文庫本コーナーも素通りし、ライトノベルの棚で足を止める。最近アニメ化された作品の最新刊を手に取り、そこでふと視線に気付いた。
「──あ」
「ふ……藤岡さん」
 さらさらふわふわの茶色いロングヘアに丸い瞳。すらりとした長い脚。
 久しぶりの、等身大の鈴原だ。
 今日は髪をサイドでゆるくひとまとめにしている。いつ見てもモデル並みに綺麗である。実は芸能人なのだろうか。
 そんな飛び抜けたルックスを持つ彼女であるが、何故かこの地味男日本代表の異名を持つ(嘘)僕のことが好きなのであった。
「奇遇だな」
「え、ええ……そうですね」
「本、読むんだ」
「はい、……まあ……」
「………どうしたの?」
「え? いえ、あの」
 いつになく落ち着きのない鈴原。不審に思い、五メートルほどの間を縮めようと、本を置いて足を踏み出す。
 刹那。
「こ……っ来ないで下さい!」


いつもより文字数多めの7・8話でした。

これからもよろしくお願いします。

駆り出されたうさぎ
「でも、貴方が好きなんです」
 風もないのに鈴原の髪がふわりと揺れて、微かなシャンプーの香りが鼻先をかすめる。
 改めて見ると、やはり綺麗な女である。本当に、何を間違ってこの女は僕に結婚なんて申し込んだのだろうか。勿体ないなんてものではない。
 不意に衝動が沸き上がって、気が付けば柔らかい何かを胸に押しつけていた。
「…………」
 これが女の体温か、などとぼんやり考えながら細い肩を素肌で感じる。
「……──!? ふ、藤岡さ……」
「え、あ!? ……え!!?」
「えと……あの」
「いや、違──あ、違わないけど、えっと」
 顔が火照っているのを見られたくなくて、必死で顔を背ける。衝動で動いたことは過去何度もあるけれど、今回は最悪だ。
 欲求不満だと思われたかな、そりゃそうだよなぁこんな狭い部屋に男一人が引きこもってネットサーフィンやってたら普通欲求不満だよな? うわぁどうしようこれ僕完全に変態だよ紳士だよどうすんだよ!
「藤岡さん、あの……」
「すまん! いやあの、いつも美少女ゲーやってムラムラハスハスしてるわけじゃないから!! 僕こう見えて見た目通りの童貞だから! ……あ、これ寧ろマイナス要素か、いや違うんだ! 本当、エロゲなんてやったことないから! 無料体験版しか!!」
「あの、違うんです、その……嬉しくて」
「え」
 嬉しいって……僕(童貞)にハグされたことが、か?
「普通だと思います、あの……好きな人に抱きしめてもらえたら」
「………ああ」
 一瞬忘れていた。
 そうだ、こいつは何か知らんが僕のことが好きなのだった。
「……ごめん」
「え? なぜ貴方が謝るんですか?」
「お前は僕のことが好きで、童貞な変態だと知っても抱きしめられて嬉しいとか言ってくれてるのに、僕はなんかお前のこと変な奴だとかばっかり思ってどう扱ったらいいのか分からなくて」
「………」
「扱い方なんて考えなくて良かったんだよな。お前が僕を好きだっていうだけで充分だったんだ」

「僕、お前のこと好きになれるかも知れない」

 Tシャツには妖精さんが住んでいたのだろうか、そんな言葉がさらりと出てきた。
「──藤岡さん………」
「まぁでも、アレだ、やっぱいきなり同棲ってのは色々まずいだろ。今日知り合ったばっかだし、少なくとも僕的には」
「……」
「焦ることはないだろ? これからゆっくり仲良くなっていこうよ。まあ……まずはmixiかな」
「あの……」
「大丈夫だって。僕、本当にお前のこと好きになれる気がするんだよ」
「……あの、私、mixiやってないんですけど」
「………マジか」
「アメーバはやってます!」
「じゃあ、アメブロで……」
「有り難うございます」
「じゃまあ、お前は今日は帰れ。ほら、もう昼過ぎてるじゃんか」
「それじゃあ、これから貴方をランチに誘うのは駄目ですか?」
「………」
 僕は今、いつになく幸せな気分である。久々にバイトと買い出し以外の外出をするのが面倒ではないような気がする。
「……駄目な訳ないだろ」
 少し照れながら、それでもちょっとだけキザに言ってみる。

「ありがと」
よっぺいにはまった駆り出されたうさぎです。

反応がダイレクトすぎて泣きそうです。

小説がやっと書きたまってきたので
来れるときに2話アップしちゃおうかなと思います。

そういや、やっとにこさうんどから曲落とせるようになりました。

\電子機器万歳/

ではいったんお別れ。

駆り出されたうさぎ