メディア芸術祭ざっくり感想
どうも遊木です。
秋は見逃せないイベントが多くて大変ですね。というわけで原稿作業真っただ中だろうと突撃するぜ!第2弾、メディア芸術祭について。
流石に作品ひとつひとつに感想をつける時間はないので、いくつか面白かったものをピックアップしてご紹介します。
アート部門
ソーシャル・インパクト賞
Google Maps Hacks
大量の中古スマートフォンを用いてGoogleマップ上に架空の渋滞を作り、現実の交通状態にも影響を与える作品。
目に見えないアルゴリズムに干渉し、人の行動を無自覚のうちに誘導、平たく言えば操作するという着眼点は現代ならではです。
ただその方法は、手押し車で99個のスマホを運ぶという非常にアナログなもの。このアナログさが、コンセプトだけ見ればデジタル社会の薄暗い面が目立ちそうな作品に、ユーモアさを与えています。
漫画のトリックに使えそうなネタで、アート部門でありながらわくわくを感じました。「やられた!」という気持ち。
まさに“発想の勝利”タイプの作品です。
その他のアート部門の作品も、去年より面白いと思うものが多かったです。
「Acqua Alta – Crossing the mirror」は目新しさはないものの、「自分でもやりたいな」と思わせる、ほど良い親近感がありました。
大賞、優秀賞、どれも全体的に中度良い難易度で、展覧会初見の人でもそれなりに楽しめる作品が多かった印象です。
エンターテインメント部門
全体的に安定感はあるものの、飛びぬけて面白いと思う作品はなかった印象です。
AR/VRに関しては、もはやそれだけを使っても力はありません。その技術を前提に「この視点は新しい、面白い」と思わせる作品が今後出てくることを期待します。
初回の面白さで言えば「らくがきAR」が高評価な気がしますが、作品から続くもの、発展性が見えづらい。良くも悪くも出オチという印象を持ちました。子供には受けが良さそうですが。
エンタメ部門の中では「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」が一番興味深かったです。
身体が不自由な人でも、遠隔ロボを操作することによって社会の中でしっかり働ける様子を示した作品。
ロボットの性能上、現状ではまったく健常者と同じとまではいかなくても、未来において五体満足、健常者、リアルとヴァーチャル、それぞれの価値が大きく変わってくることを示唆している作品です。
SFをつくるときは、このような作品を知識として頭に入れているか否かで、物語のリアリティに大きく影響が出そうだと思いました。
アニメーション部門
大賞
映像研には手を出すな!
直前に12話一気見しましたが、納得の大賞、非常に面白い作品。クリエイターの皆さん、必修です。
個人的に金森さんがとても良いキャラだと思いました。創作の場におけるプロデューサーの役割がいかに大切かわかりますね。
浅草or水崎タイプかは人によって分かれると思いますが、どちらもエゴイスティックに、それ以上にストイックに創作と向き合っている様子は同じです。特に、7話の「私はその拘りで生き延びる」から続くラストの言葉はぐっとくるものがありました。エゴもここまで貫き通せば美しい。
しかし、“誰かに伝える”にはいかなる天才でもエゴだけでは難しい。そして鑑賞者不在のアニメはその時点で不完全。シンプルな構成、面白い会話劇を交えつつ、クリエイターの利己的な輝きの合間に、そういう点がしっかり描かれていることが、この作品の完成度に繋がっているように感じました。
アニメーション部門はレベル高めの印象でした。
「映像研」を見る前は「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」とダブル大賞でも良いのでは?と思いましたが、鑑賞後は「……なるほど…これは映像研が大賞か」となりましたね。あまりにも作風が違うので一概にどちらが優れているとは言えませんが、メディア芸術祭では「映像研」に分があったな、と。
個人的には「海辺の男」も面白かったです。架空の生き物を、あたかも実在しているかのように語る口調は淡々としているからこそリアルで、シュールで、それ故に面白い。
マンガ部門
相変わらずガラパゴスな印象ですね。
今回は知っている作品、知らない作品半々でしたが、どの作品からもそこはかとない(ものによってはハッキリと)狂気を感じて見応えがありました。
余談ですが「イノサン」のメイキング動画内で、“精神を擦り減らす”的な字幕が出たときは思わず「知ってるよ」と言ってしまった……いや、知ってるよ。あれ描いてたら擦り減るよ、精神。
個人的に興味深かったのは、今回は妙に“女性のリアル”に言及している作品が多かった点です。「塀の中の美容院」「ひとりでしにたい」「かしこくて勇気ある子ども」「マイ・ブロークン・マリコ」、それぞれ表現の違いやフィクション的設定はありつつも、そこに描かれている女性は妙に生々しいというか、本当ではないかもしれないけど、“嘘でもない”という想いを感じるというか。考えさせられる作品だな、と。
毎年あるからこそ、何故今年はこの傾向の作品が多いんだろう?と考察するのが、メディア芸術祭の醍醐味のような気もします。
開催期間は短いですが、この数の作品を無料で見られるのは大変ありがたい。そして10年以上連続で通っているからこそ見えてくる“表現の世界”がある気がします。
今後も自分の創作の糧にしていきたい。
aki