映画『ミッドサマー』ディレクターズカット版を見て来ました。(ネタバレ多め:当社比 | 乱歩酔歩--Random Walk official blog--

映画『ミッドサマー』ディレクターズカット版を見て来ました。(ネタバレ多め:当社比

 巷で話題の『ミッドサマー』を見て参りました!気になってた監督の作品なので楽しみにしてました。原稿真っ最中だけど行きたい~!とモタモタしてたらヒットしたことでまさかのディレクターズカット版が公開。3時間丁寧に地獄を味わわされると思うと「うへぇ~」と思わず声が出てしまいますが、どうせ見るならこっちでしょ!と意を決して行って来ました。朝一で見に行ったんだけど悲しいくらい雲一つない快晴。こんなに嬉しくない晴れは中々ないよ。割引デーを狙って行ったのですが、下調べが足りず一律2000円だったことを知らず、なら公開当日に見に来れば良かったー!とか、折角霧島さんに分けてもらったマスクして来たのにポップコーン買って食べるとかマスクの意味ないじゃん?バカでは?とか、グダグダしつつも視聴して来ました。

 映像・小道具・ルーン文字・北欧神話については考察班のブログに任せて私はいつも通りゆるい感想に書いて行きますよ。まだ視聴してない人にできるだけ先入観を与えたくなくて感想でもなるべくネタバレは書きたくない派なのですが、今回は書きたいこと書こうとするとどうしても内容や結末のネタバレになってしまったので避けたい人はご注意ください。

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 2年前程から夏にホラー映画鑑賞したり、有名ホラー映画『シャイニング』の続編『ドクタ・ースリープ』が制作中と情報を掴んでから楽しみにしてたこともあり、時々ホラー映画について検索していたんですが、近年のホラー映画作品の代表として『へレディタリー/継承』の名前を見かける機会が度々ありました。そして「ヘレディタリーの監督の新しいホラー映画が公開する!」ということでツイッターの映画好きの間で話題になっていたのを見かけ、まだ字幕なし状態のプロモーション映像も流れて来たのでなんとなく見てみました。
 そしたら、「ここまでネット上や画面上の『映え』を意識した『ホラー映画』を作るとか、発想の逆転というかむしろ全力で有効活用する感性がすごいな」とかなり衝撃を受けました。「美しい映像が恐ろしい」という感覚は『シャイニング』で感じた感覚と似ていたので、「これは劇場で見たい!」とそわそわしてました。しかし、ここまで有名になっちゃうと「逆にそんなに期待しない方がいいかなぁ~期待半分で見よ~」と心に防衛線を張ったりしながら劇場に向かいました。

 結論から先に言うと、「すごく貴重な映画体験をしたな。」という感覚が一番強かったように思います。公開前から情報を知って楽しみにしてた&初見をディレクターズカット版で見れた。という運に恵まれた事も大きい要因だったと思いますが、この映画は「色んなモノを感じる」部類の作品だったと感じました。「邪悪でエグい『海獣の子供』」みたいと言えばいいのか…風評に響くかなこの表現…。以前『海獣の子供』の感想も書いたので良かったらどぞ。

 ホラー映画ではあるのですが、全体を通して「無慈悲なまでに『人間社会のコミュニティの問題・崩壊・そして取り込まれる恐怖』を丁寧に描いていた」作品だったかなと私は思いました。やぁ~、人間関係や精神が疲れちゃってる人は見ない方が良いと思います。下手すると派手なグロシーンや濡れ場より精神的にクると思うので。

 作中では主人公ダニーに焦点を当てて様々なコミュニティが見られるのですが、まぁこれが順番に崩壊していく様をほぼ3時間をかけてじっくり丁寧に見せられるわけですよ。手厚い地獄。「家族の問題と崩壊」「恋人との問題と崩壊」「友人との問題と崩壊」「価値観が違う者同士の問題と崩壊」「閉鎖された環境での問題と崩壊」そして最後は「本編で1番やばいコミュニティに取り込まれる(自分を捨てるor狂気に身を任せる)ことで救いを得る」みない構成の流れになってるのが中々えげつない。なにがえげつないて、「実際に現実で起こっているであろうリアルティがある」のが怖い。
 ホラー映画って途中から「悪霊」「悪魔」や「悪魔崇拝」「カルト集団」みたいなのが出て来て馴染が無い分ファンタジーに見えてしまうのですが、そういう表現が出てこず、徹底して「信仰・文化・価値観の違い」という雰囲気で通したのはこだわりが伺えて、ある意味で好感は持てたのですが…。
 現代社会では「色んな国・文化・信仰・人・性の多様性を理解はできなくても認めよう」という認識が広まって来て良い事だと思うのですが、それ故に起きてしまう、それでも起きてしまう問題、人間関係って難しいね…上手くいかないね…的な空気も感じました。

 ネットですぐ世界中の人と繋がれるのに感じる孤独感。不安から来る恋人への依存。鬱の妹が両親を道連れに心中。友人たちとの空気を気にしてドラッグを断れない。悲鳴が響いても意に介さず普段通り生活する村人。善意でコミュニティに引き込むおためごかしなありがた迷惑。外部の人間を犠牲にすることへの罪悪感の無さ。極限状態になると異常なはずの環境に救いを見出してしまう。孤独の恐怖と共感の恐怖を同時に見せてくる。もう、これでもかとコミュニティの問題を網羅してくる。もう許して欲しい。逃げ道が全部塞がれた恐怖で泣いちゃうよ。

 つい、ゲーム時間は1時間とプライベートにまで踏み込む某条例やら、コロナ騒動で浮き彫りになった人種差別意識やら、とかが浮かんでしまいました。今はネットで調べれば色んな情報がすぐ手に入りますが、外からいくら正論やら法律の内容やら説いてネット上に流しても「実際にそのコミュニティを牛耳る組織やそのコミュニティの中で生活していかなければいけない住人」の中だと条例は通っちゃうし、差別と言っても無意識に怖がる&嫌悪する感情って自分でコントロールするの難しいし。簡単な答えとかないので地道にその都度、理不尽には怒って間違いは正してある程度距離を取るくらいしか思い浮かばない。もうどうすればええねん。脱線したのでこの話は終わりますけども。

 ホラー映画なのに映像や演出に「繊細さ」を感じるのもすごく不思議でした。これは『シャイニング』を見た時の感覚と同じでしたね。『シャイニング』の監督スタンリー・キューブリックは完璧主義者で納得するまで何度でも映像を取り直す人だったそうですが、今作の監督アリ・アスターも繊細な完璧主義者で涙もろい人だそうで。なんとなく映像作りにもそういう部分が滲み出ていると感じました。映像や演出で、見てる側に「3時間最初から最後まで常に小さいストレスを与え続ける」みたいなえげつなさも感じて「そこまでするぅ???」て所も怖かったよ。最後までチョコたっぷりだもん。
 他にも色々あったなぁ。見たい気分でもないのに見せられる濡れ場ってキツイというか、ホラー映画で濡れ場というのがもうキツイとか、これ推しカプにセックスさせたいオタクの図では?とか、ホラー映画なのに画面があまりにシュールすぎて思わず笑ってしまったりとか。
 
 ホラー映画なのに映像や色彩が美しい、ホラー映画なのにリアルすぎるくらいリアル、ホラー映画なのに細部まで作り込まれて繊細、なんか、ホラー映画でここまで色んな感情が行ったり来たりするとは思ってませんでした。ホラー映画ではあるけど、切り口や雰囲気がかなり独特ですごく印象に残る作品でした。あの世界観に浸れるなら2000円出しても良いな!と思える映画体験でした。映画作品としても良作だったと思います。正直、キツイ内容なので繰り返し見たい映画ではないのですが、とにかく盛り込まれた要素が多いのでそれらを拾うために機会があればもう2、3度くらいは見ておきたいかな~、とは思いました。

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 以下、蛇足の小話。上記はなるべく冷静に書こうと思って書いた感想ですが、とりあえず吐き出してスッキリしたいので勢いのままつらつら書いたものも下記で置いておきます。

 被害者はみんな理不尽すぎる目にあってかわいそうなのですが、1番かわいそうだったの主人公の友人グループじゃない方のカップルだと思いました。主人公グループは問題てんこ盛りだったので崩壊する流れはわかるんですが、カップルは婚約直後で幸せそうだし人間として一番まともな感性持ってたはずなのに殺され方が1番酷いと感じて「あんまりだー!」てなりました。ホラー映画に出てくるカップルは死亡フラグでしかない。かわいそう…。スンスン。あと、「別れたい恋人がいるなら一緒に見てください」て誰かがコメントしてたと思うけど、私と同じ席の列にいた若い男女、カップルだったのかな、とか少し思いを馳せたり。

 あと見てる時に『本当は怖いグリム童話』とかを読んでる時の感覚と似たモノ感じました。世界が現実から虚構に切り替わる様な感覚もあったので「現代版:不思議の国のアリス、みたいな作品を作ったらこんな感じかな。」と思ってたんですが、監督本人が「変態のためのオズの魔法使い」て表現してるらしいと視聴後に知って「ぅ…うわぁ…(思い当たるアレコレ」てなりました。正直あまりわかりたくなかった気もしますが。

 視聴後に色々調べる程、監督の持つ繊細さを強く感じました。「常に小さいストレスを与え続ける」様な手法は、監督自身が「常に感じている小さいストレスや生きづらさ」が滲み出てる様にも感じました。「内容はアレだけど物語もその結末も『ダニーの心の傷を癒すセラピー的なもの』だった」「本編の殆どはダニーが心を癒す為に見ていた幻覚だったのでは?」「嫌いな人間を脳内で殺す、みたいに空想の中で心の整理をして現実と折り合いを付けてるのと同じなのでは」等の考察を見かけて、そういう視点は無かったので中々興味深いなぁ~と思いながら読んだりしてました。

 視聴中は、最初からずっと不安で不穏、悲しすぎるのでココ丁寧に描写するのやめません?、わぁ~キレイ~、うわぁ~ガンギマりだぁ~、怖いハワワ、グロいンゴゴゴ、人が消えたあとに料理シーンを入れるな(真顔、イタタタタタタッ、1mもありがたくない濡れ場、うぇぇぇんあんまりだぁぁぁ、んんんコレは~www、て感じで感情があっち行ったりこっち行ったりで全然定まらず、この、なんとも表現しづらい気持ちをぶつける場が欲しかったのでココのブログで吐き出せて良かったです。スッキリしました。

 それで長くなってしまいましたが『ミッドサマー』感想終わります。とりあえず『翔んで埼玉』系の明るいおバカ映画でも見てメンタルリセットしないと。

noz