横浜美術館開館30周年展覧会「Meet the Collection」行ってきました。
須々木です。
先日、横浜美術館で開催されていた展覧会「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」に行ってきました。
横浜美術館で開館30周年を記念して開催している「Meet the Collection展」に行ってきました。なかなか見応えがあって良かったです。
— 須々木正(Random Walk) (@rw_suzusho) 2019年6月21日
美術館のコレクションを単に並べるだけでなく、コンセプトを提示し、新たにアーティストを招いて価値をプラスしていたのが面白かった。https://t.co/zwp71rg7mM pic.twitter.com/QX9bQNIutt
2019年が開館30周年にあたる横浜美術館。
今回の展覧会は、美術館の全展示室を使ってコレクションを紹介するものです。
ところで、現在のみなとみらいを思い浮かべると、「30周年」という言葉と結構ギャップがあります。
実際、30年前のみなとみらいってどんな感じだったのかと調べてみると・・・
横浜市の六大事業の一つとして再開発構想が出たのが1965年。
事業名が「みなとみらい21」に決定したのが1981年。
事業着工が1983年。
そして、ちょうど30年前の1989年。
横浜市制100周年、開港130年に当たる年であり、その節目に「横浜博覧会」が開催されました。
「横浜博覧会」に合わせて開館した施設(パビリオン)のうち、横浜美術館と横浜マリタイムミュージアム(現・横浜みなと博物館)は恒久施設として今も残ります。
今回の展覧会でも書いてありましたが、「開館当初、新たに開発されたみなとみらい21地区には、林立する高層建築はまだなく美術館から海が一望できるほどでした」とのこと。
なかなか想像できないです。。
他にも、当時世界最大の観覧車だった「コスモクロック21」は、博覧会後に移築して今に至ります。
桜木町から博覧会の桜木町ゲートまでを結んだ「動く歩道」は、現在は、当時の桜木町ゲートの場所にできたランドマークタワーへの動線となっています。
博覧会閉幕後、現在のみなとみらいにある多くの施設が整備されていきます。
※余談ですが、平成に公開されたゴジラシリーズで「シン・ゴジラ」(2016年公開)に抜かれるまで最多動員を誇った「ゴジラvsモスラ」(1992年公開)は、最終決戦の地が横浜みなとみらいです。昔の位置にあるコスモロックが結構見せ場で使われます。
つまり、30年前は、横浜美術館開館だけでなく、みなとみらいが現在のように形作られていくスタートラインの年だったわけですね。
さらに言えば、1989年は昭和が終わり平成が始まった年。
そして、開館30周年にあたる2019年は平成が終わり令和が始まった年。
今回の展覧会期間中にちょうど元号が切り替わりました。
もちろん、ただの偶然ですが、時代の節目にうまく被せてきています。
現在では、みなとみらいのシンボルとしてイメージされるのは、ランドマークタワー、赤レンガ倉庫、パシフィコ、インターコンチネンタルホテルなどだと思いますが、実は、それらより前に横浜美術館はあって、日々移り変わっていく新しい街を眺めていたんでしょうね。
そんなわけで、2019年。
開館30周年の展覧会のお話です。
個々の作品について、いろいろ書き始めるとキリがないので、エッセンスだけ軽く触れます。
まず、超ざっくりした感想ですが・・・
横浜美術館を俯瞰しつつ、そこに新たなコンセプトを付加していて、なかなか見ごたえがありました。
収蔵品からインスパイアされたもの、収蔵品の数々を要素として取り込んだ作品、美術館の展示空間そのものを要素として取り込んだ作品など、単に額縁やケースに収まって並べるだけではない面白味がありました。
単なる見た目の美しさではなく、発想の面白さをより感じるという感じ。
もちろん、ヨコハマトリエンナーレとも関連が深い美術館なので、そちらの文脈も感じられました。
エントランスホールに展示されていました。一般の方も協力して制作されたようです。
今回の展覧会は、「LIFE:人のいとなみ」「WORLD:世界のかたち」という二つの柱を設けて、美術館のコレクションを並べるだけでなく、複数のゲスト・アーティストを呼び、コレクションの新たな解釈と空間構成に挑戦しています。
「LIFE:人のいとなみ」は、さらに以下のようなセクションに分かれていました(観覧順序に従って掲載)。
「こころをうつす」(ゲスト・アーティスト:束芋) ・・・日本画など。
「いのちの木」(ゲスト・アーティスト:淺井裕介) ・・・動植物を主題とする作品など。
「まなざしの交差」 ・・・「目」に着目して選ばれた作品など。
「あのとき、ここで」 ・・・写真など。なお、横浜は「日本の写真発祥の地」ということで、当美術館では写真部門が設けられている。
※ホワイエに「特集:宮川香山」というコーナーもありました。真葛焼(横浜焼)の創始者である宮川香山の作品が並んでいました。これが陶磁器か・・・という感じで。実物をしっかり見たのは初めてかもしれないです。興味のある人はこちらへ。
「WORLD:世界のかたち」も、以下のようなセクションに分かれていました。
「イメージをつなぐ」(ゲスト・アーティスト:今津景) ・・・シュルレアリスムを中心に、ネオダダ、ポップアートなど。
「モノからはじめる」(ゲスト・アーティスト:菅木志雄) ・・・「もの派」など、素材とその組合せを表現の根幹においた作品、オブジェや図像とそれが配される場との関係性に主眼をおいた作品。
「ひろがる世界」 ・・・限られた大きさのカンヴァスや造形の中にも無限のひろがりを感じさせる多様な世界像をもった作品群。
※最後にエピローグ的に「横浜美術館のコレクションと展覧会」というコーナーがありました。横浜美術館の歩みやコレクションの情報がまとまっていました。
壁面の額縁に美術館のコレクションが収まっており、それ以外の壁面がゲスト・アーティストによるもの(淺井裕介)。
全体として空間が演出され、空間そのものが一つの作品のようです。
「イメージをつなぐ」。
最奥壁面にゲスト・アーティストの作品(今津景)。
やっぱり、ダリの作品は絵画でも立体作品でも存在感がありますね。
「モノからはじめる」より「環空立」(菅木志雄)。
右側が展示室5、左の開けた空間がホワイエ。
この作品は、展示室の中と外にまたがったもので、展示室の出入口サイズにあわせた木枠が連なっています。
キャプションなど見て、なるほど面白いなと思ったのですが、その感覚を伝える語彙力を持ち合わせていないのでここでは割愛。
「ひろがる世界」。
本展覧会のラストのセクション。
個々の収蔵品をリスペクトしつつ、それらに新たなコンセプトを付加し有機的に配することで、集合体のレベルで新たな視点の作品が成立する。
単なる陳列にとどまらない新たな価値の創出。
個と集合がパラレルに成立し、二元的に価値を持ち続ける具体的な例を鑑賞すると、これまた刺激は大きいものです。
これは、まさにRandom Walkが志向する、〈個人と集団の両立〉に近いコンセプトだと思いました。
微視的な個の動きが、繋がりあって巨視的なムーブメントとして解釈できるというのは、SNSが浸透した現代ではもはや日常となっています。
このような個と全のダイナミズムに対し、単なる現象として受動的に関わるのではなく、より能動的に課題解決の手段の一つとして活用したいという思想が根底にあります。
それぞれのクリエイターにおける“個”としての領域は保ちつつ、同時に、“集団”としての領域をオーバーラップさせる。
今までもRandom Walkの活動を通じて積み上げてきたこのような感覚に対する、より能動的かつ具体的な産物を今回の展覧会から感じて、変化の激しい現代の荒海を渡り楽しむためのヒントをもらった気がしなくもないと、勝手に思いました。
sho