親族を見送り戻って来た記理子達
「やっとひと段落ついたわね」
「あー疲れた」
「もう、あんた達はそんな言い方しないの」
紀理子が机の上を片付けながら言うと
「みんな帰ったから言うけどさ、本当に大変だったんだから」
「そうそう俺まだ今月はノルマ達成してなくて、何気に大変な時期だったんだぜ」
お前はノルマかよ
「あんたは自分の事ばっかりね、まあ保険の外交は大変だって知ってるけど」
「姉さんの想像以上に大変なんだぞ」
「でも、早く帰った樋口のおばさんが契約してくれるって言ったんでしょ」
「そうなんだよ、あさって帰ったらすぐに書類用意して家に行く予定、交通費ももうもらってある。成二おじさんも契約してくれるし、来週は忙しくなるから今日はゆっくりさせてもらおうかな」
交通費もらったって
「あんたチャッカリしてるわね」
「本当ね、そうだお茶入れなおすわね、あと隠しておいた」
立ち上がり奥へ用意に行く記理子。
「それにしても、父さんったら何も母さんと私の旅行中に死ななくてもよかったと思わない?帰って来たら警察は来てるわ事情徴収はされるわ、まるで犯人扱いよ納得いかないわ」
「俺の職場にも警察から電話が来て周りから変な目で見られて困ったよ」
眉間にシワを寄せた美沙子が
「わかる~それって、この人何やらかしたって興味本位の目でしょ~いやよね」
と言うと飛び付くように徹が
「そうそれ居心地悪いのなんのって、で結局死因はあれなんだろ」
「そう、あれだったのよ犯人は」
遠い目をして美砂子が言っていると記理子がお茶とお菓子を持って来た。
「はいお待たせ、これおいしいのよ」
「やだ母さんこのウイロウ上物じゃない」
「二人とも好物でしょ、特に美砂子は好きだから隠しておいたの。さあ頂きましょ」
「さっすが母さん」
隠しておいたって、父さんすまん
「やだ美味しい」
「でしょ」
「確かに」
「でもさ、今になって思えば旅行の相談をした時からこうなる運命だったのかもね。私達が何度誘っても父さん断ってたでしょ」
「そうだったわね、俺はいいからお前達で行って来いって」
「まさかこんなオチになるなんて思ってもみなかったわよ」
「確かにこれは想像できないよな」
「母さんは何となく分かるわ」
「え?」
ちょっ母さんなにか知ってるのか
「どういう意味だよ」
「だって父さんの夢だったのよ、いつか記録を塗り替えてギネスに載るんだっていつも言ってたもの」
微笑む紀理子に
「いやいや、だからって死んだら元も子もないじゃないか」
「そうよね~あの人ったらウフフフフ」
「そこ喜ぶところじゃないから」
「なに言ってるのすごい事なのよ、ギネスに申請できていたんだから」
「いやあれは申請できるのかも疑問だし、生きていたらの話しだし」
「徹ったら酷いわ、生きていたら父さんが世界一なのそうなのよ」
うっそんなに力いれなくても
「わかったよ」
寂しい表情になる紀理子に美佐子が
「徹のバカ、ほら母さんそんなにつらがったら父さんが成仏できないでしょ」
と言うと気をとりなおした記理子が
「そうね父さんは楽しい事が大好きだったものね」
「そうよ明るく明るく」
立ち直りはや
「で何個?」
「え?」
「だから、なん個なんだよ記録」
「記録?」
「母さん知ってんだろ記録」
目を泳がせる記理子
「あ~確か九十九個だったわよね」
私に聞く?まあいいけど
「多分そんな感じ」
「そんな感じってそれってすごいのか」
「なんかねすごいらしいわよ。特に父さんのアレンジの仕方がね、全部レシピ残してたわよ」
「アレンジ?」
美砂子が言っている間に紀理子が引き出しからノートを取り出した。
「これ警察から返してもらったノートよ」
美砂子が読みはじめた
「ここからね、行くわよぉまず定番の雑煮にお汁粉はもとよりきな粉・醤油・さとう醤油・のり・チーズ…母さん次のページ」
「えっとトマトケチャップ・ごま・チョコレート・味噌・キムチ・タルタル・マヨネーズ・くさや・マーガリンね」
「ん、くさや?くさや?」
「うるさい徹、最後の方は納豆・すだち・ドリアン・サンマ・カルパッチョ・はちみつよね」
「そうね」
「ちょ~っとまった」
「なによさっきから」
うるさい徹に美砂子はムッとした。
「あのさ所々おかしくない?いやおかしいって、なんで くさや、さんま、カルパッチョ?しかもドリアンって餅に合うのか?それよりくさいシリーズか」
目を点にして徹を見る二人。
「それはお父さんじゃないと分からないわ、他にもあるのよアレンジ」
紀理子が言うとため息をついて徹が
「餅だよね!餅の話だよね」
「決まってるでしょ変な子ね」
と美砂子に言われウッとなる徹。
「他はいいんだよ、でもそこらへんのアレンジっておいしいのか」
「それは父さんに聞いてみないと」
「そうよ」
顔を見合わす記理子と美砂子を見て徹はうなだれた。
この人たちって
「そんなに気になるなら徹やってみる?レシピあるから姉ちゃん作ってあげる」
「断る!全力で断る。それでいいんだな納得しているんだ二人は」
と言うとにこにこ微笑んでいた。諦めた徹が紀理子に
「で、どのあたりで詰まったの?」
「どのあたりって?」
「だから喉にだよ」
「確かこの辺りだったかしらね」
喉仏のあたりを指す。
「ちがうわよ母さん、このあたりよ」
ミゾオチのあたりを指す。
「違うわよ~」
あきれた徹が
「それは検死で聞いたから、そうじゃなくてどのアレンジのところで?って事だよ」
2人は顔を見合わせ
「ああ」
「そう言いなさいよ」
「そうよ」
本当にこの人たちは
がっくりとする徹に紀理子が
「たしか、さんまで頑張りすぎちゃってカルパッチョのあたりで咳き込んだみたい。で、口直しで食べたハチミツ餅のあたりみたいなのよ」
「それは大変だったねってなんでそんな事が分かるんだよ?」
するとキョトンとした美砂子が
「だって父さんが書き残したこのノートに書いてあるし。多分それを元に申請する気だったのね、ビデオも残ってるんだけど警察に証拠として持っていかれたわ」
開いた口の塞がらない徹。
「だから大食いはってビデオって何やってんだよ。じゃあその瞬間が映ってるんじゃ」
と言うと楽しそうに紀理子が
「でもね、その苦しい息の中で父さんが書き残したノートにはこれでギネスだって心からの叫びが書いてあったのよ」
という母に恐怖を覚えた徹だった。