吉田修一さんの原作小説の映画化作品。
原作を読んでからのレビューです。


ある暑い日、東京八王子の一軒家で、夫婦が惨殺される事件が起こります。
犯人は「山神一也」
家宅捜索では、コンビニのゴミが並べられ、世間や自分の周りの人たちへの些細な事の文句や、罵詈雑言を書いたチラシが壁にびっしりと貼り付けられている、異様な光景でした。
顔を整形で変えながら、逃亡していて一年、まだ捕まってはいません。

その頃、東京、千葉、沖縄で素性の知れない男達が現れます。
3人の状況が、それぞれその周りの人たちと関わりながら交互に描かれ、その正体が分かってくるという構成になっています。


私は、「東京編」のみを書きます。
映画『怒り』その物が好き、または切り取った物は『怒り』と言うべき映画ではない、と思われる方は、ご免なさい🙇
(だって、そこが好き過ぎる主腐だから…ぼけー


【東京】
藤田優馬は、大手広告代理店に勤めるサラリーマン。
彼はゲイでした。
仕事終わりに、ゲイプールで仲間達と楽しんでいます。

(ギラギラテカテカなのーキラキラ
彼には、ホスピスに入院中の末期癌の母(原日出子)がいました。

ある日、新宿のハッテン場に一晩の快楽の相手を探しに行きます。
そこで、隅で膝を抱えてうずくまる様に下を向いて、座っている男を見つけます。
興味本位に近づきますが、最初は拒否されます。優馬は、力ずくで男を押し倒し行為におよびます。(大変、エロいです←自粛ぼけー
セックスの後、出て行こうとする男の腕を掴み「何処行くんだよ」と聞く優馬に「腹が減った」と言う男。「外で何か食べよう」と優馬は男を連れ出します。

ラーメンを食べながら、色々と聞く優馬に対して最初は黙っている男。テレビでは、八王子事件の犯人が、新宿で目撃され、変装し逃走しているらしいと流れていました。
彼は大西直人(綾野剛)
「まだ、東京に出できたばかりで、知り合いの所を転々としている。28歳で仕事は探している」とぼそぼそと話しました。
優馬は「行くとこ無いなら、ウチ来る?」と一晩の宿を貸します。


ある日、優馬はコンビニで買い物し、歩いている直人を見かけます。お弁当が傾いているのを直そうとする彼を可愛く思い、彼に近より荷物を持ち「思う存分直せよ」と声をかけます。
いつもは、優馬が帰ってくる来るまで、公園で食べながら時間を潰している、という直人。
家に入れてやり、「体調が悪いなら、家に居ていい。でも信用はしてない。疑っている、家の物を盗んで居なくなったりしたら、すぐに通報するからな」と言います。直人は、「何か言えばいい?信用してくれて、ありがとう」
(綾野くんのうなじが綺麗キラキラブラジリアンワックスした後って感じキラキラ

そうして、二人の同棲生活が始まりました。
優馬の生活は、少しずつ変わって行きます。
仕事が終わると真っ直ぐに、直人の待つ家に帰るようになりました。
「最近、仕事ヒマなの?早く帰るし土日も家に居るし」
「お前と居ると、怠け癖が移ったかな」

ホスピスの母の様子を、直人は尋ねます。
「連れてってよ」「勘弁してくれよ」と、言いながら優馬は直人を母の元へ連れていきました。

それから直人は仕事で居ない優馬の替わりに、甲斐甲斐しく母を介護する様になります。
直人には「右頬に3つ並んだホクロがあるのね」とある日、優馬の母が気付きます。
「ホントだ」優馬もその時、初めて気づいたのですが、これがこの先、優馬の疑心暗鬼に繋がっていきます。

いよいよ、母の命が消えようとしていました。
「色々ありがとな。俺、何て言えばいい?」と泣く優馬。直人も何も言えません。

葬儀が終わり、お墓を作りに行く二人。
「葬儀に来るなと言ってごめん。同級生や親戚が来るって分かったら、説明できなかった」と直人に謝る優馬。
「分かろうとしない人には、説明しても分からないよ」
「墓なんか、必要あるのかな?お前も一緒に墓、入るか?」
なんとも、プロポーズの様な言葉を言う優馬。彼はこの時、誰でもない誰か分からない、でもそこにいる「直人」という人間を愛し始めていたのでしょう。
優馬が居なくなれば、墓を守るものも居なくなるのです。
「別にいいけど」出来るだけ感情を表さずに答える直人。「冗談だよ」「それならそれでも、いいけど」「分かってるよ」

ある日、仕事で外回りをしてる優馬は、カフェで知らない女と会っている直人を見かけます。心がぞわぞわする、優馬。

優馬の仲間内で、立て続けに二件の空き巣被害があり、どっちも知り合いの仕業ではないか、と噂していました。

優馬は、家に帰ると直人に聞きます。
「昨日の昼間、出掛けたのか?」
「何で?」誤魔化そうとする直人でしたが、
「仕事帰りに、銀座でお前に似た奴を見た。カフェで一緒だった女は誰?」
「言いたくない。何故かまをかける?」
「自分でもよく分からない。お前がその女とデキててバイとかじゃなく、もっと根本的なとこで、俺を裏切ってる。答えの受け方は、俺次第だ」
自分の事を頑なに話さない直人を、優馬は疑い始めます。
もしかしたら、仕事もしていない直人が、空き巣の犯人ではないか、そして今流れている八王子事件の犯人の写真の人相にも、似ている気がする…
テレビには、山神の特徴を伝える手配写真が写っていました。頬に3つ並んだホクロ…
「まさかお前、犯人じゃないよな」

その翌日から、直人は姿を消しました。
ある日、駒沢警察署から優馬に電話があります。
「大西直人さんをご存知ですか?」
優馬は、自分の勘が当たったんだ、と激しく動転し「知らない」と繰り返し、家にある直人の物を全て処分しました。

警察では、山神を知っているという男が、別件で逮捕され、山神が特定されました。
直人は、犯人ではなかったのです…

優馬は必死で、直人を探します。
連絡の為、自分の古い携帯を直人に持たせていましたが、繋がりません。
あの日、直人が知らない女といたカフェに探しに行くと、なんとその女性(高畑充希)がいたのです。
「直人が居なくなりました、探しているんです。連絡もつかない、連絡先を知っていたら教えてくれませんか?」
女性は座って、と優馬に言い、直人との事を話し始めました。
「彼とは同じ施設で育ったので兄弟みたいなもの。生まれつき心臓が悪くて、薬でだましだまし生きていた」「ある日、公園の茂みに倒れていたみたいで…」
あの警察からの電話は、直人の携帯に優馬の番号が入っていたからだったのです。
直人の死、を知らせる為の…なのに、自分は「知らない」と言ってしまった❗

「ここで会ったとき、嬉しそうに貴方の事を話していた、自分も強くなれそうな気がするって」
優馬は後悔の念に押し潰されそうです。涙が溢れ、「でも俺、逃げたんです。信じてやれなかった、なんで俺みたいな…」
席を立ち、店を出る優馬。

泣き叫びそうな優馬、ただ泣いて歩いて行きました。


優馬は、思い出していました。
ある晴れた日、窓辺で二人話しています。
お墓参りの日、見た海が綺麗だった、また一緒に見に行こうと言った事。
同じ墓へ入るのは無理だけど、隣ならいいかな、と言った事。

何も知らない、謎ばかりの相手を、でも愛してしまう、そんな事がおこるのでしょうか?

殺人事件の絡んだ、それぞれ沖縄と千葉と東京に現れた素性の知れない、何か謎めいた物を持つ男達。
何も知らないままに、親密になった人、信頼関係が出来そうになる人、愛してしまった人、に対して「信じる」と「疑う」の狭間で苦悩し心が揺れ動くお話の一つがこの「優馬と直人」の二人なのですが、見終わって(映画は全編見ました)心が潰れそうになりました。

『怒り』は、一体何なのでしょう。
犯人は、【沖縄】へ逃亡中のバッグパッカーの田中=山神(森山未來)でしたが、この人の自分勝手な横暴ぶりに、見てる私が怒りが込み上げます❗
【千葉】の田代(松山ケンイチ)は、こんな人居るだろうな、という1番現実的に思えました。素っぴんの愛子(宮崎あおい)が可愛い。

直人と優馬はなぜもっと、お互いを知ろうと努力しなかったのでしょう。
話す、という選択が直人には無かったから?命がいつ尽きるか、怖かったから?
親のいない直人が、優馬の母を世話したこと、一緒のお墓は無理でも、隣なら良いかなと言った事、もっともっとその先を話して欲しかった。
「信じる」事って、とっても難しいのですね。

自分の心が元気な時に見ないと、苦しくなるような映画でした。