
『天鵞絨の鳥』
純文学恋愛奇譚・藍雨
大切なあの人のくれた文鳥が
夜の闇に消えていった。
僕は寂しくなって
朝も昼もずっと窓を
開いていた。
けれど、ついぞ鳥は
戻ってこなかった。
泣いている僕を心配して
幼なじみが天鵞絨の鳥を
連れてきた。
それは手の中にすっぽりと
収まるくらいの小さな鳥
だったけれど
ひんやりとした手触りが
あの文鳥によく似ていて
結局僕はまだ泣いている。

雪緒は冷たい海の底に沈んでいる。
だが、雪緒を死へと駆り立てた女はまだ生きている。
公園のベンチに座って本を開いているのを見かけたが、その唇は細く笑っていた。
僕は復讐を考えた。
女の読む物語に忍び込んでその名を呼んでやろう。雪緒と同じ声で。雪緒と同じアクセントで。
女は驚きの中に後悔と苦痛を滲ませて、僕に懺悔するだろう。
許してねと泣き出すだろう。
でも、どんなに謝っても雪は戻ってこない。
僕の雪。
愛しい僕の雪。
頭を垂れた女の髪を掴み上げ、僕は細く笑ったその唇に頬を寄せた。
雪緒になって。
雪緒の代わりに。
気がつくと体が女に食い込んでいる。
離れようとしても天鵞絨のような滑らかな肌に吸い寄せられ、どこからともなくやってくる快楽に溺れそうになる。
僕は小刻みに波打つ自分に抗えない。
ああ……
僕を助け出したのは馴染みの友だった。
馬鹿なことをするなと泣きながら、その目は山葡萄のような紺碧の光を湛えていて、明らかに僕を怒っている。
雪は戻ってこない。
雪は死んだ。
何遍も繰り返し、時々僕の頬を強く叩く。
ついに雪緒は僕の中から出ていった。
また雪になってしまわないようにと、馴染みの友はずっと耳元で僕の名を呼び続けた。
【終】