タイトル「人と魔王」

 

えま(以下''え''):私は魔王。世を統べる者。この世の全ては我が手に収めてきた。
             手に入らないものは無く、思い通りに行かない事は無い。そう、思っていた。
                    あの時までは。私は確かに、そう思っていた。

え:「私に謁見?誰だ。…ほう、うむ通せ。ああ、丁重にな。
ふう…。私に謁見とはな…そんな者はだいぶ久しいな。まあ畏怖の対象たる私に
会おうなどという者は早々いないだろうが。しかし此度の者はどこぞの国の女王らしいが…
度胸が座っているというか、物好きというか…。む、来たか。」


白雪(以下''白''):「お初にお目にかかります。私、夜王国の女王白雪巴と申します。
                      えま様とお会いできて光栄でございます」

え:「うむ。して、夜王国の女王が私に何用なのだ。ただ会いに来ただけではあるまい」

白:「はい。この世を統べる魔の王がどのような方なのか…一度目にしておきたくて」

え:「…どういう意味だ。」

白:「深い意味などございません。ただそのままの意味ですよ。私、驚いています。
      魔王などという肩書を持つ御方が、まさか…」

え:「っ!?な、なんだ急に立ち上がるな!よ、寄るな!!」

白:「こーーーーーんなに可愛らしい方だなんて…!!!!!!」

え:「っーーー!?!?!?!?!」

え:な、なんで私は抱きしめられてるんだ!?というか初対面だよな!?何で…!あ……でもいい匂い…
   
え:「っ!じゃなくて!!離れんかーーーー!!!」

白:「あっ…これは失礼いたしました。私ったら…」

え:「はぁはぁ…な、何なんだ!いや、何なんだ!?」

白:「いやぁ、私実は可愛い子に目がなくて。えま様が魔王だということなど思わず忘れてしまう
      程に可愛くて思わず…」

え:「かわっ!?ぶ、無礼ではないか!?魔王たる私に!そもそも初対面であろうに!」

白:「ええ、申し訳ありません。非礼をお許しください」

え:「ま、まあ少し驚いたが…全く。だが白雪とやら」

白「なんでしょう?」

え:「お前、私に抱き着いた時、振り払われず最悪葬られていた可能性を考えはしなかったのか?」

白:「それは…思いませんでした。」

え:「なぜだ」

白:「だって…」

え:「ま、また寄るな!んっ…」

え:その時、女王が私の耳元で囁いた。

白:「分かっていただけましたか?」

え:「あ、ああ…ってまた近いぞ。離れろ」

白:「失礼をしました。それでは私はこれで失礼いたします。また伺わせていただいても?」

え:「う、うむ。好きにするがいい」

白:「ありがとうございます、えま様。ではご機嫌よう」

え:…行ったか。な、なんだったんだ…嵐のように来て過ぎ去っていったな。しかし、最後の言葉は……
   ……ハッ!私は魔王だぞ!?そんなことは、ないのに…。
   白雪巴、か。
 面白いヤツだ。そして何より綺麗だった。
   また来るのか…楽しm…

え:「だ、だから私は何を!!ただの人間でしかないだろうに!!もう…もう!!!」

え:そんな私の気持ちをよそに、白雪は何度も私を訪ねてきた。
    ただ話をするだけの時もあれば、白雪の持ってきたお茶で二人だけのお茶会を
  開いたりもした。
  白雪が訪ねてくるのは決まって水曜日の昼下がり。
  他愛もない時間ではあったが、私はいつしかそれが楽しみになっていた。
    そう、楽しみになっていたのだ。
    そんな二人の時間を重ね続け、何度目かも分からない、ある日の事。

白:「ところで、えま様」

え:「なんだー、白雪」

白:「それ。その''白雪''っていう呼び方。そろそろ止めて頂いてもよろしいですか?
       いつまでも他人行儀になるような仲でもないではありませんか」

え:「うっ…たしかにそうだけど…」

白:「けど?」

え:「なんだか、急に呼び方を変えるのは恥ずかしいというか…タイミングが分からなくなったというか…」

白:「はあ…呆れた魔王様ですねぇ…」

え:「なっ…!って、なんだ急に傍に来て…」

白:「私はいつでも…(耳元に近づいて)''巴''と呼んでいただいて構わないのですよ?」

え:「ヒャッ…!は、はい…」

白:「では、えま様?」

え:「う、うん…と、とも、え…」

白:「もう一回」

え:「と、巴!」

白:「はい。えま様」

え:巴が満面の笑顔を私に向ける。くっ…でもやっぱり、綺麗だな…

え:「で、でも巴の方こそ!その''様''っていうのを止めてほしい!」

白:「えっ?けれど、えま様は私なんかより上の立場におられるので…」

え:「そんなの関係ない!私がそう呼んでほしいから、言ってる」

白:「分かりまs」

え:「敬語もダメ」

白:「…分かったわ。えま」

え:「エヘヘ…ありがとう、巴」

白:「えま…」

え:「巴…」

え:私たちは顔を寄せ合った。そして…。

 

え:「・・・きだよ、巴」

 

白:「なぁに?えま」

 

え:「ううん、なんでもない」

 

白:「フフッ…本当に可愛い魔王様…」

 

・・・・・・・・・


え:ただただ幸せな時間だった。
    思えば、誰かと笑いあうなんてことも気持ちを重ね合うなんて事も
  今まであっただろうか。
    巴との時間は、その1つ1つがかけがえのないものになっていた。
    そして気付いてしまった。自分の気持ちに。
    魔王たる私が、抱いてしまったのだ。
    ただの人間である、巴を相手に。
    だが…進む時と共に私は気付いてしまうだろう。

  ''人''と''魔王''
    その違いがどれだけ大きいのかを。


え:「巴」  

白:「どうしたの?」

え:「私たちが出逢って、どれだけ経ったのかなぁ」

白:「んー…そうねぇ…想像もできないくらいの時間かな?」

え:「フフ、なにそれ。でも…そうかもね」

白:「どうしたの急に?」

え:「うん…私ね今の今まで巴に黙ってた事がある」

白:「私に?あら何かしら…」

え:「私…私、巴の事が好き。ずっと好き、だった…」

白:「うん…ありがとう、えま。でも、今言うんだ、それ」

え:「軽蔑されても良いよ、それだけのことを私はしたんだ」

白:「軽蔑まではしないわよ。ただ早く言って欲しかったなー…って。それだけ」

え:「ごめん…ごめんね、巴…」

白:「謝らないで。あなたと過ごしてきた事は全く後悔していないし、とても楽しかったわ。
  ありがとう、えま」

え:「巴…ともえぇ…」

白:「あらあら…魔王ともあろう方が泣いちゃうなんて。泣き虫さんね」

え:「だって…だって…!」

白:「ねぇ、えま。こっちに来て。私のそばに来て」

え:「ん…」

え:そう言って巴は私の顔に手を添え、初めて会ったあの日の言葉を、また私の耳元で囁いた。

白「ああ…あなたはやっぱり、澄んだ目をした
      ''やさしい魔王様''…
      だいすきよ…」

え:「巴…
      いかないでほしい…ともえ…」

え:スルリと手が私の頬から落ちる。とっさに私はその手を掴み、強く握った。
  声にならない声が出る。目からは止めどなく涙があふれる。

え:「くっ…私はっ…私は魔王だ。この世の全部は手にしてきた思い通りにしてきた!だけど…!」

え:時の流れは残酷だ。
    いくら願っても、止まることは決して無い。
    そしてそれは大切なものを、この私からも奪っていく。
    
え:''人''と''魔王''
    生きる時間の流れが違う私達。
    ああ…どこかで私は気付いていた。
    気付いていたのに私は、思いを伝えるのが最後になってしまった。
    それでも、巴は答えてくれた。

白:「だいすきよ」


え:ありがとう、巴。
   私はこれからも生きていく。魔王として。
   いつか…いつか、この身が滅ぶ時が来るだろう。
   その時が来たら…
   また、会おう。