著者:アンドリュー・ポンチェン
訳者:竹内薫
発行:ダイヤモンド社 2024
著者はロンドン大学の宇宙論の教授。コンピュータシミュレーションのスペシャリストである。
本書ではいきなり宇宙のシミュレーションの話に入るのではなく、日常生活になじみの深い天気予報に使われるシミュレーションの話から入っているので、なんとなく納得しやすい展開になっている。
何もない空洞が大部分を占めるという宇宙の網目構造については、以前にネットの記事でみて、どうやって見つけ出したのが不思議に思っていた。この発見にもシミュレーションが大きく貢献したとのことである。そもそも天気予報や宇宙のシミュレーションはナヴィエ=ストークスの方程式が基本になっているらしい。正確にシミュレーションするためには天気予報でいえば、各地点の気温、気圧、風向、水蒸気量などが必要であるが、コンピュータのメモリや記憶容量には限りがあるので一定間隔のグリッド内ではこれらの値を同一のものとして扱うようだ。それでは、現実を反映できないので、グリッド内部で起きていることをうまく表現するサブグリッドでの処理をいかに設定するかがシミュレーションのカギとなるらしい。
宇宙論は、ダークマターやダークエネルギーなど観測だけではとても明らかにできない段階まで到達してきているので、コンピュータシミュレーションの重要性はますます高まるものと考えられる。ただし、サブグリッドの処理によっては結果は大きく変わりうるようなので、様々な見方での現実との比較など信頼性の確保が重要であると感じた。
これまで科学分野のシミュレーションの啓蒙書を読んだことがなかったので、面白く読むことができた。