「クワイ河に虹をかけた男」から登場人物やエピソードのうち印象的な場面を紹介します。その2回目です。惜しくも編集から漏れたシーンもあります。
「あなたをずっと待っていました」
そう永瀬さんに声をかけたのはトレバー・デイキンさんだった。
元イギリス陸軍伍長。戦後はカナダに移住して、6年前にタイに来たそうだ。
「退職後、ここに移り住んで余生を過ごすことにしたんです。亡くなった仲間たちの元でね」
デイキンさんはこの町で巡礼に来る元捕虜や家族に対して、広い墓地の中で目指す墓がどこにあるのかなどを知らせるボランティアをしていたのだ。
「まずお詫びをしたい、この鉄道で私たちがしたことについて…」と永瀬さん。
「あなたの謝罪を本や記事で読みました。私にはそれで充分です。あなたは私が手を握り合いたいたったひとりの日本人です」
「おー、サンキュー」
「あなたに会うのに6年もかかりましたよ」
デイキンさんは日本人の一行と1列に並んで十字架の前に花束を捧げた。
デイキンさんは1997年に亡くなった。初の来日を楽しみにしていたという。
彼の遺灰は、遺言通りカンチャナブリのもうひとつの墓地・チュンカイ共同墓地に散骨された。ここは捕虜病院があったところで、1750人が眠っている。
(つづく)
