東日本大震災が発生してから自分は毎年5月と8月に三陸沿岸を訪れるようになった。毎年現地に行くのはともかく、長年続けているとどうしても行動がマンネリ化してしまい、これでは意義が薄れているのではないかと自省するようになった。色々思案した結果、明治29年と昭和8年の三陸大津波などにも目を向けてみようと思い立ち、各地に残る津波記念碑を調べてみることにした。

 津波記念碑について調べていると「津波石」というものも数カ所残されていることが分かり、まずは大船渡市三陸町の吉浜に保存されているものを現地調査の対象とした。


 津波石の位置を調べるためGoogleマップを見ていると吉浜駅の近くに「日本一小っちゃな本屋さん(カドベッカ書店)」という表記があり、「以前あの辺りを通った時に書店の類いを見た記憶はないが…」と気になって検索してみた。どうやら個人宅で絵本を販売しているということは分かったが、詳しいことについてははっきりしなかった。それなら5月に津波石の調査をする際に立ち寄って確認し、津波関連の絵本なら購入すればいいしそうで無ければ震災や歴史津波の話を何か伺えれば、と考えた。前置きが長くなったが、自分がたまたまGoogleマップでカドベッカを目にしなければここへ行くこともなかったと思う。



 津波石を見学したのち開店時間を見計らってカドベッカと思われる場所に行くが特に大きな看板や幟もなく、どう見ても普通の民家にしか見えなかった。不安になりつつ声をかけて玄関を開けてみると奥の間のこたつに家主と思われるばあちゃんが座っていた。あいさつをしていると奥からもう1人中年の女性が出てきて対応してくれた。


 自分がこちらの絵本について尋ねると「吉浜のつなみ石」「ふろしきづつみ」「もも色ゆうびんきょく」「浜の命」の4冊を出して頂いた。そのものズバリな「吉浜のつなみ石」と東日本大震災の体験談を綴った「ふろしきづつみ」は即決で購入。
 こちらの奥様から色々話を伺ったのだが、その時に「この本屋の経緯は以前テレビで紹介されたことがあるんですよ」と言われた。自分は見た記憶がなかったので見逃していたことになるが、先日思い出して検索してみるとどうも岩手の復興ドラマに取り上げられたようだ。


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↑ドラマはこちらで見ることができます。ナビゲーター兼出演者の村上弘明さんは岩手出身なのは知っていたが陸前高田市の広田町が故郷だったとは知りませんでした。





 5月に「吉浜のつなみ石」「ふろしきづつみ」を購入した際、作者である小松則也さんのご厚意で「もも色ゆうびんきょくは差し上げます」と言われたのでありがたく頂くことにした。推測ではあるが、広島から何度も被災地を訪れて震災や歴史津波を記録している自分に何か思う所があったのかも知れない。「浜の命」は8月に再訪した時に改めて購入したが、現在は5冊目を執筆中だという。
 小松さんは普段小学校で教員を勤めているが、震災以降は絵本による防災教育や地域の歴史を伝えようとの思いから執筆に至ったとのことだった。当初は紙芝居による読み聞かせを行っていたが、絵本出版の経緯についてはドラマの中で説明されている。



 8月は突然の再訪だったにも関わらず自らガイドを申し出て頂き、マップには記載がない津波記念碑や吉浜の津波石などを改めて案内してもらうことができた。また、東日本大震災の被害状況や昭和8年の三陸大津波後の高台移転なども現地で細かく説明を聞くことができた。


↑「もも色ゆうびんきょく」のモデルになった旧吉浜郵便局。旧々郵便局が昭和8年の三陸大津波で被害を受けたため高台移転の問題もあって昭和11年にこの場所に新築されたという。モダンな局舎は地域のシンボルとして長年親しまれてきたが昭和63(1988)年に新局舎が現在の場所に完成したため業務を終了した。

※吉浜にある「日本一小っちゃな本屋さん」はちょっと分かりにくいかも知れないが、ここでしか買えない絵本のために足を運ぶ価値はあると思う。なお、この不思議な名前は屋号の「カドヤ」と岩手の方言で小さなものを指す「べっか」を合わせたものだったと思うが間違っていたらすんません。