自分が普段通勤に使っている国道には自動車専用道路との合流地点を立体交差化する橋梁工事が行われている。現在の国道と自動車専用道路は平面交差になっており、ラッシュ時には右折待ちなどの車で激しい渋滞を引き起こす原因となっている。これを解消するため専用道路から国道へ合流する車線と国道から専用道路に進入する車線は橋梁によって立体交差となる。


 交差点付近の橋脚では橋桁の組み立てが行われている。深夜のうちにトレーラーで運び込まれた橋桁は橋脚の横で組み立てられ、所定の長さに達すると横に移動させて橋脚に設置すると思われる。


 横から見るとこんな感じ(右側は自動車専用道路、左側は国道の交差点)。画面には写っていないが、右側でも橋桁の組み立てが行われているが、こちらは横滑りではなく橋桁を先へ送り出していく工法でやっているようだ。
 市内では平成末期に第二音戸大橋や阿賀マリノ大橋が相次いで架橋されているが、これらは造船所で完成した橋桁を台船で運搬、サルベージ船によって現地でドッキングさせている(架橋時には付近の船舶の航行が禁止された)。


 橋桁と言えば広島県民には忘れられない事故がある。1991年3月14日に発生した「新交通システム橋桁落下事故」である。

↑橋桁落下事故を報じる当時の新聞

 新交通システム(アストラムライン)とは軌条の上をゴムタイヤで無人走行するバスと電車を合わせたような車両と運行形態の総称である。この工事を行っていた安佐南区上安2丁目の現場で突如長さ63メートル、重量60トンの橋桁が橋脚から落下、真下の県道38号線で信号待ちをしていた車11台を直撃した。下敷きになった車は厚さ50センチほどに押し潰され、乗っていた9名が即死、橋桁から落下した作業員5名も死亡する大惨事となった(後に重症だった1名も死亡)。事故から2時間後現場に大型クレーンが到着して橋桁を撤去したが、押し潰された車は誰の目にも助かる可能性はないと思われた。
 事故の原因について、元請け業者は橋桁を設置する重要な作業にも関わらず工事統括責任者や代理人が不在、補佐役も簡単な指示だけ行ってその場を離れた。二次下請けの監督も本来は事務職で技術的な知識がなく、実際に作業を行っていた三次下請けの作業員も据え付け工事に関して素人同然であった。また、県道38号線は1日に15000台が通行する要衝であったため広島市は通行止めの措置を取らず、県警もこれを了承して作業を行っている(※当時は迂回路もなかった)。しかも広島県は数年後に広島アジア大会を控えており、建設ラッシュで熟練作業員が不足するというマイナス要因などが積み重なった末の結果に起きた惨事であった。この事故から現場作業員の資格や安全管理などが見直される契機となり、企業のコンプライアンスなどに一石を投じる結果となった。


 しかし橋桁落下事故はその後も起きている。近年では2016年4月22日に新名神高速道路(神戸市北区)の建設工事で行われていた有馬川橋の架橋現場で長さ124メートル、重さ1350トンの橋桁が国道176号線に落下、通行している車はなかったが橋桁で作業していた職員らが巻き添えになり、10名が死亡する大事故が起きている(↑上写真)。

 現在の労働安全衛生法などはこのような尊い犠牲の上でアップデートされ現在に至っていることを改めて痛感するばかりである。今地元で行われている架橋現場では細心の注意を払って橋桁の設置工事を行っていると思うが、どうか事故のないよう「ご安全に」作業を終えて欲しいと願う。