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 先日紹介した野口健さんの著書「震災が起きた後で死なないために」の中で、日本の避難所レベルはソマリア以下だと書かれていた。様々な専門家や海外のボランティアなどが被災地の避難所を見てこう言われたそうだが、野口さんはこの事実にショックを受けたそうである。海外では赤十字などが避難所にガイドラインを設けており、国際基準があることを自分も本書で初めて知った。これには一人あたりのスペースやトイレの数、水や食糧の供給量などが提示されている。日本ではこのガイドラインを知る人は殆どいないと思われるが、日本人の感覚なら「非常時だから仕方ない」「我慢するのが当たり前」「贅沢を言える状況ではない」と思ってしまう。しかし「人間らしい暮らし」をすることは憲法でも補償されているし、避難所の環境を良くすることは当然の権利でもある(「権利」と「贅沢」の線引きは難しいところではあるが)。なお、広島の土砂災害の時は避難所に掲示板があり、被災者が希望する物を記入すると自治体職員がそれを見て発注するという方法を採っていた。

 遅ればせながら内閣府も昨年4月、自治体に向けて「避難所運営ガイドライン」を作成しているが、その中で次のようなことが書かれていた。↓

「避難所はあくまでも住む家を失った被災者らが一時的に生活を送る場所です。公費や支援を得ての生活であることから『質の向上』という言葉を使うと『贅沢ではないか』というような趣旨の指摘を受けることもあります。しかし、ここでいう『質の向上』とは『人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送ることができているか』という『質』を問うものであり、個人の収入や財産を基に算出される『生活水準』とは全く異なる考え方であるため『贅沢』という言葉は当てはまりません。本ガイドラインは避難所において『避難者の健康が維持されること』を目標に、その質の向上を目指すものです」

 非常時だからといっても普段に近い生活を送ることは当然の権利だと言いたいのだろう。野口健さんが熊本地震に於いて益城町にテント村を設営しようと思ったのはヤマ屋の経験からヒマラヤのベースキャンプを避難所に応用できるのではないかと思ったことがきっかけだったそうだが、窮屈な避難所や余震を恐れてエコノミー症候群のリスクを知りながら車中泊をする人たちにもゆっくり休んでもらいたい、との思いからだった(この時野口さんは知らなかったが、テント村は国際的な避難所ガイドラインに近い環境レベルだったとのこと)。設営には様々な困難があったけれど、テント泊をした被災者には概ね好評だったようだ。多くの被災者はもっと続けて欲しいと希望していたが、梅雨入りによる冠水のリスクや仮設住宅への移転問題などもあり惜しまれつつ5月一杯で撤収となっている。なお、使用したテントやタープなどは「ご自由にお持ち帰り下さい」となり、多くの家族が持ち帰ったそうである。


※生活環境の向上と言えば仮設住宅のお粗末さも何とかならないかと思うのだが…。