自由な市場では賃金は下がり続けない (2): 労働組合・解雇規制・最低賃金法の害 | 古典的自由主義者のささやき

古典的自由主義者のささやき

経済の問題は、一見複雑で難しそうに見えますが、このブログでは、経済学の予備知識を用いずに、日常の身の回りの体験から出発して経済のからくりを理解することを目指します。

現在有益に使われていない生産設備や原材料や労働力などの資本が、早く見込みのある産業に吸収されるためには、企業が採算の合わない部門を容易に切り捨てられることが必要です。もちろん企業が無駄な費用を削減する過程で解雇される人が出てきます。しかし、景気が回復して失業者が減るためには、社会の生産能力が人々が求める物やサービスを今よりも生産出来るように変わることが不可欠です。消費者の需要に合わせた資本の再編成が起ってこそ、企業の新規雇い入れが増大し、失業者が減少し、そして一旦下がった賃金が上がり始めるのです。賃金が上がり、失業者が収入を得る機会が増え、さらに消費者が購入しようと思うものが新興企業によって新しくまた安価に提供され始めると、消費の拡大が起ります。これが不景気からの脱却の始まりです。


不景気からの脱却のために必要な労働力の再編成は、解雇と再就職を伴う過程です。しかし、斜陽産業や企業内で営業が不振な部門で雇用されている個々人にとって、職を失うことは大変苦しいことです。特に不景気の真っ最中には失業者が増えているので、失くした職で得ていたよりも低い賃金で本人が望まない仕事に就くことを余儀なくされることが多いのです。出来れば失業の苦しみを避けたいと皆んなが考えるでしょう。従って、現在雇用されている人たちが団結して労働組合を結成し、政府に働きかけて法を味方につけ、雇用者が自分たちを解雇しにくいようにしようとするのは自然なことです。

一旦雇用された人々が組合を結成して、組合員だけが組合の代表を通じて雇用者と雇用条件や賃金の交渉が出来る独占的な地位を獲得し、さらに独占的な地位が政府によって認可されると、組合に所属していない人たちの自由が奪われることになります。組合の独占的な交渉権は、今雇われておらず従って組合に加盟していない人と雇用者の間で、双方が同意する賃金と条件で労働力売買の契約を結ぶ自由を奪うからです。

組合員が全員で一斉に就業を拒否するストライキは、雇用者と非組合員の自由を奪う行為です。雇用者との労働力の売買を約束しておきながら就業を拒否するのは、契約の不履行であり、雇用者にとっては自発的に合意したことではありません。また、ストライキの最中に仕事場の周囲に物理的な障壁を設けて、組合に所属していない人が労働力を提供するために仕事場に行くことを妨げるのは、非組合員の自由の侵害です。怠業や物理的な障害を設けて他の人の自由を妨げることは一人で行えば許されない行為です。一人で行えば許されない行為が集団で行うなら合法になるというのは道理にかないません。労働組合の政治的な力によって、雇用者と組合に所属しない失業者の自由が奪われるのを法が許すという事態が生じているのです。

「労働者」は雇用者よりも弱い立場にあるから、契約違反や物理的な障壁を設けるという暴力を許すべきだという意見があります。しかし、雇用者といえども、人を雇って生産活動を続けないと経営を維持出来ない立場にあります。暴力を用いて意思に反して人を働かせることが許されていない以上、雇用者であっても仕事を求める人が同意する賃金を提示することを迫られます。職を求める人が気に入らない賃金を永久に拒否し続けられないのと同様に、他にも人を雇おうとする人が存在する以上、雇用者も被雇用者が拒否する低賃金しか払わないと何時までも主張し続けることは出来ません。

雇用者が求める技能を持つ人が少ない場合には、この技能を持つ人は高い賃金を要求することが出来ます。雇用者に対する労働者の立場を高めるためには、労働者に人の自由を侵害する行為を許すのではなく、失業を減らして雇用者同士が貴重な労働力を雇い入れるために激しく競争しなければならない状況を作ればよいのです。雇用者同士の競争が増すためには、既存の企業が成長したり新興企業が生まれたりして労働者の需要が増大しなければなりません。そのためには、上で述べたように、労働力を含めた資本の再編成が容易であることが有効なのにもかかわらず、労働組合は資本の再編成を妨げているのです。


ここで断っておく必要があるのは、働く人たちが組合を結成してお互いに助け合うこと自体は決して非組合員の自由を妨げる行為でないということです。さらに、同業者の組合は雇用者と被雇用者同士がお互いを見つけやすくする機能があります。例えば、一定の技能を保有する人だけを組合があらかじめ選別して組合員の労働の質を保証すれば、雇用者は時間と労力をかけて有能な人材を探す手間をかけずとも、労働の質の信用のある組合から人を雇えばよいのです。労働組合が非組合員の自由を奪うのは、政府の認可によって、組合が雇用者との労働契約を結ぶ独占権を獲得した場合やストライキを行う権利を認められた場合です。


一斉に雇用者の生産活動を停止出来る力を得た労働組合は、組合員の賃金を上げ、組合員の解雇を難しくすることが出来ます。ところが、この組合の組合員保護のための行動は、実は、賃金の上昇を妨げると共に、失業者を増やし、さらに、同じ被雇用者でも組合員と非組合員との間に賃金格差を生んでいるのです。以下に理由をみてみましょう。


人々が求める商品を人々の手が届く価格で提供を続けていくためには、企業は生産する商品を変更したり生産方法を改良したりして、常に経費を削減する必要があります。この過程で今まで必要だった技能が不要になることがあります。ところが、労働組合員の解雇を困難にする雇用条件や、それが政府に後押しされて成立する解雇規制は、企業の営業成績向上のための努力を妨げます。組合に属するがために幸い解雇を免れても、雇用者である企業が成長しなければ、賃金の上昇には限度があります。賃金が上がり続けるためには、企業の限られた収益の中から組合員の取り分を増やすことではなく、最終的には企業が成長することが必要です。

解雇規制がなければ失業者が増え続けるので賃金が下がり続けるという人がいるかもしれません。確かに、解雇を妨げる規制がなくなると解雇される延べ人数は増えるでしょう。しかし、解雇規制が存在する場合と比較すると、解雇規制がない方が一旦解雇された人が他の企業に再雇用されることが容易になるので、ある時点で失業している人の総数が増え続けるとは限りません。

なぜなら、上で述べたように、解雇規制がなければ企業の営業成績向上の努力が容易になり、成績の向上した企業が新規雇い入れを増やすことが挙げられます。さらに、解雇規制がなくなれば、企業は新規雇い入れに積極的になります。解雇規制があると、たとえ不要になった技能にも賃金を払い続けなければなりません。将来この事態が起ることを避けるために、企業は労働力の雇い入れが望ましい時であっても、解雇規制に守られた組合員の新規採用に二の足を踏みます。解雇規制は失業者の雇用を阻んでいるのです。

さらに、組合員の新規採用に慎重になる企業は、可能ならば、当面必要な労働力を解雇規制の対象でない非組合員である「非正規社員」を雇うことで補います。そして、一旦雇い入れたあと不必要になった高賃金の組合員を雇い続ける無駄な出費を、企業が非正規社員の賃金を低く保つということで賄うという賃金の二重構造が生まれます。従って、解雇規制を失くすことによって、失業者が減ると同時に、賃金の二重構造も解消出来るのです。

解雇規制がなくなれば、業務の再編成が容易になり、適材を適所に置くことも容易になるので、企業は営業成績を上げやすくなります。もちろん競争も激しくなるので、倒産も増えるでしょうが、新しく起る企業も増えます。生産設備や原材料の値段が下がると同時に賃金が一旦下がった状況では、新規企業が立ち上げやすくなるからです。不景気の最中で財布の紐が堅くなった消費者に買ってもらえるものを安く生産するためには、新規企業が雇い入れる資本の価格が下がっていることが助けになります。解雇された人たちは、営業成績が伸びている他の企業での就職の機会と得たり、新しく生まれた企業に再就職することでやがて賃金の上昇にも恵まれるのです。社会全体で見れば、労働組合の特権を認めている法制度や解雇規制がなくなれば、生産資本の再編成が容易に行われるようになり、不景気からの脱却と経済成長が促されるのです。


政府によって決められた最低賃金を払わなければ人を雇ってはいけないという「最低賃金法」も政府による雇用者と被雇用者同士の取引への干渉です。具体的には、最低賃金法は、法律で定められた最低賃金よりも低い価格で労働力を売買する自由を妨げています。

最低賃金法は表向き賃金の低下を防ぐために導入される制度ですが、現実には最低賃金法がなければ職が得られた人のなかに失業者を生み出し、この失業者の賃金をゼロにする制度です。

ある人を一人新しく雇い入れることによる増産で得られる増収が、最低賃金に満たない場合には、雇用主はこの人を雇おうとはしません。雇うことが損失を生むからです。もし、この応募者が最低賃金よりも低い賃金で働く用意があり、また雇い主がこの応募者を雇い入れることで増える収益が応募者が同意する賃金よりも多額の場合には、両者が合意する形での雇用が本来成立したはずです。最低賃金法は、ここで例に挙げた理由で職に就けない人たちを増やし、この人たちの賃金をゼロにします。その上、最低賃金より低い賃金で働く意欲のある人々が国内に存在するにもかかわらず、最低賃金より低い賃金で雇える労働力を求めて国外に生産活動を移す企業も現われます。

最低賃金法で職を得る機会を失うのは、若くてまだ技能を修得していない人たちを含む未熟練労働者です。従って最低賃金法は、若者や未熟練労働者の間に失業を増やします。さらに最低賃金法は、未熟練労働者が最低賃金よりも安い賃金で働きながら技能を修得する機会を奪います。最低賃金法が存在しても、大学に通ったり賃金を受け取らないで企業でインターンをして経験を積むことは認められています。しかし、大学に通ったり無給のインターンをすることはある程度の経済的な余裕がある人のみに許されることです。大学に通っても無給のインターンをしても収入が得られないどころか、自腹を切る必要あるからです。さらに、税による補助金で授業料が安く抑えられている大学が多く存在します。

つまり、経済的に恵まれない人が仕事の経験を積む機会が最低賃金法で阻まれているのに、比較的経済的に恵まれた人は自腹を切って経験を積むことが許されているだけでなく、税による補助も受けているのです。もちろん、自腹を切って大学に通ったり、インターンをして経験を積むことは自由です。未熟練労働者が経験を積む機会を奪っている最低賃金法こそ撤廃すべきです。

それに、上で述べたように、賃金が低い方が企業家が起業する際に有利です。賃金だけでなく生産設備や原材料が安くなっている時こそ、起業の機会です。最低賃金法も労働組合や雇用規制と同様に、企業家の起業を困難にし、賃金の下降を停止するきっかけの芽を摘みます。


以上検討したように、労働市場への政府の介入は、実は失業者を増やし、賃金を低く抑え続けるだけでなく、労働力を含む社会の資本が、消費者の需要の変化に適応して再編成されることを難しくし、景気の回復と賃金の上昇を妨げます。人々が労働力を売買する自由を妨げる政府の制度は撤廃されるべきです。



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