#223 山手線の駅名を覚える ~“痴楽綴り方狂室”~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

四代目柳亭痴楽は“破壊された顔の所有者”をキャッチフレーズにして、高座に上がっただけで笑いを呼ぶその顔と、マクラで決まってリズミカルに話した“痴楽綴り方狂室(ちらくつづりかたきょうしつ)”1960年代に一躍人気者になった噺家である。

 

 ここでは山手線の駅名を織り込んだ「恋の山手線」という綴り方を鑑賞しよう。知っている人も多いから何かの時の余興に使えるかも知れない。また、この綴り方では、山手線の駅名が一つ抜けているから、それを考えながら聴くのも一興であろう。出だしはちょっと工夫が足りず分かりにくいが、上野駅をスタートして内回り(反時計回り)に駅名を順番に織り込んだものである。

 

 上野を後に池袋 走る電車は内回り 私は近頃外回り 彼女は綺麗なうぐいす(鶯谷)芸者 日暮里笑ったあのえくぼ 田畑(田端)を売って命がけ 思うはあの娘のことばかり わが胸の内こまごま(駒込)と 愛の巣鴨へ伝えたい おおっかな(大塚)びっくり度胸を定め 彼女に逢いに池袋 行けば男が目白押し そんな女は駄目だよと 高田の婆(高田馬場)や新大久保のおじさんたちの意見でも 新宿聞いてはいられません 夜々に(代々木)なったら家を出て 原宿減ったと渋谷顔 彼女に逢えれば恵比寿顔 親父が生きてて目黒い内は 私もいくらか豪胆だ(五反田) 大崎真っ暗恋の鳥 彼女に贈るプレゼント どんな品川良いのやら 魂(田町)も宙に踊るよな 色好い返事を浜松町 そのことばかりが新橋で 誰に悩みを有楽町 思った私がすっとんきょう(東京) 何だ神田の行き違い 彼女は遠に秋葉原 本当におかちな(御徒町)ことばかり 山手(やがて)は消え行く恋でした。

 

(上野駅・東京 2009年)

 

出来の良い綴り方とは言えないが、山手線の駅名を順番に覚えるのには役立つのではなかろうか。と言っても、最近はこういう隠し芸も流行らなくなっているようであるが。

 

さて冒頭に書いた、抜けている駅名は西日暮里である。これは痴楽の創作ミスではない。上記の綴り方は昭和43年に放送された録音盤を聴きながら書き留めたもので、西日暮里駅が開業したのは昭和46年のことであるから当然のことである。その後、西日暮里駅の開業に合わせて綴り方も書き替えられたとのことである。

 

四代目痴楽は新作物で一時代を築いたが、52歳の頃に脳卒中で倒れ、以来20年間もの闘病生活の末に他界した。歯痒い思いをした後半生であったことであろう。

 

 

 

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