#177 お役所仕事 ~「ぜんざい公社」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

 国営のぜんざい屋<ぜんざい公社>が開店した。ものは試しと一人の男が公社を訪れる。受付で訊くと「1階の1番窓口へ行け」と言われる。窓口では申込書を作るからと住所、氏名などを訊かれ、印鑑を押せと言われる。その申込書を持って突き当たりの銀行の出張所で書類作成の手数料を払って戻ってくると、「万一の事があってはいけないので6階の医務室で健康診断書を貰って来い」と言われる。医務室に行くと、“只今食事中です。しばらくお待ちください”という看板が出ている。待たされた後に診断を受けて診断書を持って返ってくると、今度は「ぜんざいの代金3,000円を銀行で払い込んで来い」と言われる。「そんな高いぜんざいはもう結構です」と言うと、「ここで止めると契約不履行で罪になりますよ」と半ば威されて仕方なく代金を払い込む。「餅は焼きますか?」と訊かれ、「はい」と答えると、「火気使用許可書が必要なので隣の消防署で取って来い」と言われる。

 

 必要書類が揃ってやっとのことでぜんざいが出てきたが、肝心の汁がほとんど入っていない。「このぜんざい、汁がありませんが…」と言うと、「それでいいんです。当方は公社です、“甘い汁”は吸っておきました」。

 

 一昔前、「お役所仕事」という言葉がよく使われていた。効率を軽視して手続きを重視し、顧客(住民)ではなく役所本位で進める仕事のやり方である。この「ぜんざい公社(ぜんざいこうしゃ)」という噺はこの「お役所仕事」を揶揄した滑稽噺で、サゲは許認可権などの権限を持つ役人にありがちな汚職を指したものである。あっちこっちに振り回され、一日仕事であった昔の市役所での体験を思い出した人も少なくないであろう。実に着想の素晴らしい噺である。

 

 

 現在では役所も住民の立場に立った仕事ぶりになってきており、インターネットの活用もあって「お役所仕事」は死語となりつつある。また、住民のチェック体制も充実してきて“甘い汁”を吸う体質もなくなって来ているようにも思う。この噺が今の若い人たちに通じないようになっているのであれば喜ばしいことである。

 

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