#137 一膳飯屋での掛け合い漫才 ~「二人旅」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

演目に「二」が付く噺としては「二番煎じ」(#104参照)「二階ぞめき」「二人癖(一般題は「のめる」)」、「真っ二つ」、「二人酒」、「二つの分かれ道」、「二つ面」が挙げられる。ここでは「二人旅(ににんたび 別題「煮売屋」)」を採り上げる。

「二人旅」は、上方落語の“東の旅シリーズ”(#26参照)の一部分である「煮売屋」が東京へ移入されて改題されたものである。

 

 伊勢参りの旅に出た大阪に住む喜六と清八がある村に差し掛かった。「兄貴、腹が空いたな」「あほ、ええ大阪もんがストレートに言うもんじゃない。そこは粋に“らはが北山”と言わんかい」「どういうことです?」「“腹”をひっくり返して“らは”、北の方の山は大抵空いて見えるだろう、これで腹が空いたという意味だ」「成程!何でもひっくり返すと粋に聞こえますか?」「胸なら“ねむ”、足なら“しあ”、口なら“ちく”という具合に何でもひっくり返せるな」「では“目”は?」「目?、…目はひっくり返すと物が逆さまに見えるからひっくり返せないなあ」「じゃあ“歯”は?“手”は?」「…、お前さん、一文字のものばかり選っているな。二文字以上のものでないとひっくり返せないよ」「では“耳”は? 耳はひっくり返すと逆さまに聞こえますか? “乳”は?“(ほほ)”は?“(もも)”は?」「もういい、止めだ。おッ!あそこに茶店がある。看板が出ているから飯があるかどうか見てこい」。

 

「行って来ました。駄目です、休みのようです」「なんと書いてあった?」「“ひとつ(一)、せんめし、ありやなきや”と書いてありました。“せんめし”というから飯はやってないようですよ」。念の為兄貴分の喜六が見に行くと、“いちぜんめしあり やなぎや(一膳飯あり 柳屋)”と書いてある。「やってるじゃないか。変な所で区切って読むな」と二人は茶店へ入る。

 

「亭主、何が出来る?」「壁の貼り紙を見て下さい」「二番目と三番目の“とせうけ”、“くしらけ”って何だい?」「“け”ではなく、“汁”という字を崩して書いてあるんです。“どぜう汁”に“くじら汁”でございます。仮名はにごりを打つと読み方が変ります」。馬鹿にされた清八、「そうかい、何でもにごりを打つと読み方が変るかい?では“い”は?」「…」「“ろ”は?“に”は?」と亭主をへこます。

「じゃあ、どじょう汁を貰おうか」「はいはい、では裏の池で泥鰌を捕って参りますのでしばらくお待ちを」「どの位掛る?」「はい、先日の大雨で裏に出来た水溜りにぼちぼち泥鰌が住み出したのではないかと…」「おい、おい、もういいよ。くじら汁にするよ」「(かか)、おにぎりを10個ばかり握っておくれ。今から和歌山へ行って鯨を買ってくるから」。

 

なんとか料理に在り付くことができ、「酒はあるかい?」と訊く。「はい、“むらさめ”、

“にわさめ”、“じきさめ”と3種類ございますが」「どう違うの?」「“むらさめ”は村を出ると酔いが醒め、“にわさめ”は店の庭を出ると醒め、“じきさめ”は飲む尻から(じき)に酔いが醒めます」「水で割った酒みたいだね?」「いえ、酒で割った水です」。

 

「二人旅」は東京の噺であるから登場人物は変えられているが、上記筋書きは上方落語の「煮売屋」に依った。大阪を発って奈良見物をした後、名張(三重県)辺りの一膳飯屋での出来事であろう。この後、「七度狐」へと噺はつながって行く。

 

(三重県護国神社・三重 2003年)

 

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