#53 義理堅い幽霊 ~「皿屋敷」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

「皿屋敷」という、あまり怖くない怪談噺を聴いてみよう。この噺は播州・姫路に伝わる“皿屋敷伝説”に題材を取っているので、先ずはその伝説を要約しておこう。

 

 代官の青山鉄山の屋敷にお菊という美しい腰元がいた。鉄山はお菊に懸想するが、お菊には末を言い交わした男性が居て、鉄山のプロポーズを拒み続ける。“可愛さ余って憎さ百倍”となった鉄山はお菊を苦しめてやろうと姦計を策し、お菊に家宝の“10枚一組の皿”の管理を申し付ける。

 数日後、お菊を使いに出した隙にその内の1枚を隠し、使いから戻ったお菊に「改めるから皿を出せ」と命ずる。お菊が箱から皿を取り出して「1枚、2枚…」と数えるが何度数えても1枚足りない。当然のことである。「何処へ隠した?」と鉄山は、お菊を縛って井戸の中に吊るし折檻をするがお菊に謝る気配はなく、キレた鉄山はお菊を斬り殺して井戸の中に捨てる。

 その夜、井戸の中から青火がポッと出たと思うと「うらめしや鉄山殿、1枚、2枚……9枚」と言いながら鉄山に慿りついて離れない。連日これが繰り返されて鉄山は狂い死にする、という物語である。

 

(姫路城・兵庫 2016年)

 

さて、落語に戻ろう。

 

鉄山の屋敷跡の井戸からお菊の幽霊が出るという噂が立つ。これを聞いた近所の若者連中が観に行こうと相談していると、物知りが「お菊が皿を数える時、“9枚”と言う声を聞いて死んだ奴がいる。7枚目位で逃げれば大丈夫だ」と忠告する。

 

連中が屋敷に行き井戸の周りに恐々席を取るとやがて青火が出てお菊が現れ、「1枚、2枚…」と数え始める。「6枚、7枚」「それ逃げろ!」と連中は一目散に逃げ帰る。「ああ怖かった。でもお菊さんはものすごい別嬪さんやな。明日も行こう」。

 

噂が噂を呼んで連日大勢の見物人が来るようになり、「井戸端の良い席がありまっせ」とダフ屋も出る盛況ぶりとなる。お菊さんも乗せられて「おこしやす。今晩も宜しく」と愛想を振りまくようになる。

 

ある夜、お菊さんがいつものように数え始めると、「今夜は声の調子がおかしいようでっせ」と観客の一人が言う。「ええ、風邪を引いてますの、ごめんなさいね。…6枚、7枚」「それ逃げろ!」「8枚、9枚、10枚、……17枚、18枚。お終い」「おーい、皆待て!何かおかしいぜ。お菊さん、あんたが数えるのは9枚までやで。なんでそんなにようけ(多く)数えたんや?」「風邪引いてますやろ、今晩、二日分数えておいて明日の晩は休ませてもらいますの」。

 

何とも義理堅くて芝居気のある幽霊ではないか。三代目桂春団治二代目桂枝雀の高座が面白く聴かせてくれる。

 

皿屋敷伝説というのは実話ではなく創作であって、筋書きは少しずつ異なるが姫路以外にも幾つかの地にあるようで、東京落語では東京・番町の皿屋敷を舞台にして「お菊の皿」という演目で演じている。美女ともなると誰もが取り合うという人類本能の現れであろう。

 

(姫路セントラルパーク・兵庫 2013年)

 


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