序、
状況：大腸がん第4期。いわゆる「ステージ4」。
転移先：原発巣そばリンパ、肝臓2か所、肺。
2016年06月、大腸原発巣及びリンパの開腹摘出手術。大腸管30センチ摘出。
07月の療養期間を経、08月より化学療法＝抗がん剤治療開始。
全ライン-全クール共通して、2週間で1クールを繰り返す。初日の通院にて半日日帰り入院で吊るし点滴、終了後、風船点滴を装着し、帰宅する。3日目夕方に風船点滴終了、通院にて針を抜く。開始から一週間後の8日目に、検査と診察を行う。残りの1週間で次クールに向かい療養。
・1stライン：FOLFOX＋アバスチン。 2016/08開始、合計15クール。
2016年11月、8クール中に行った効果測定が良好で、腫瘍マーカーは正常値圏内に下降。CTやPET-CTでは新たな転移～再発も認められず、転移先の肝臓と肺の残存腫瘍3か所も明らかに縮小が観察され、先ずは小さい方の肺の転移癌腫瘍を抗癌剤で潰す事を目標に、同治療法の9クール目以降の継続を決断。
しかし2017年02月、15クール目を最後に、治療休止及び精密検査の為、一時転院。抗癌剤作用が陰りを見せ、肺は縮小なし、腫瘍マーカー上昇。肝臓転移巣の摘出等、行先を模索。
結果、転移巣摘出手術はNGと結論。肺と肝臓の2部位である事がネックの上、肝臓手術のリスクも懸念。残存転移巣状況：肺×1、肝臓×3。
・2ndライン：FOLFIRI＋新薬サイラムザ。2017/03開始、合計8クール。
2017年07月、抗癌剤治療2ndライン8クール目後の効果測定にて、「FOLFIRI＋サイラムザ」療法は効果無しの判定。転移巣増大120％+腫瘍マーカー上昇。
・3rdライン：サイラムザ+FOLFOX。2017/07開始、合計2クール。
2ndラインで終了の標準治療ガイドラインから外れ、抗癌剤治療の続行の提案を承諾。効果が予測不明な3ｒｄライン＝1stラインのFOLFOXに新薬サイラムザの組み合わせ。
ところが、2017/08、新薬サイラムザは「FOLFIRI＋サイラムザ」の組み合わせのみでしか保険適応認可されていない事が判明、突入早々、座礁。
・4thライン：FOLFIRI＋新薬ザルトラップ。2017/08開始。
更に新薬「ザルトラップ」にて抗癌剤治療の続行の提案を承諾。
留意事項としては、やはり新薬の宿命が故、此の組み合わせしか保険適応認可されておらず、効果測定判定結果に依っては、抗癌剤治療自体が座礁する可能性もあり。
(2017/08)
一、
2017年07月中旬、効果が認められない判定の2ndライン：FOLFIRI＋新薬サイラムザに終止符を打ち、
3ｒｄラインの”サイラムザ+『FOLFOX』”の組み合わせにしてみたところ、実は此の”組み合わせ自体”が未だ保険認可されておらず、”保険適応外”との旨で、わずか2クール目にして座礁。
最悪、点滴抗癌剤治療は中止で経口投与薬での治療への移行も懸念されたのだが、3ヶ月前に認可されたばかりの「ザルトラップ」と云う新薬を使い、抗癌剤治療を続行したい旨の提案を受け、4ｔｈラインへの移行を決断。
前ラインからの移行での奏効率は60～70％が見込まれるとの旨。あくまでも統計的にだが。
「ザルトラップ」抗腫瘍作用を併せ持つ血管新生阻害剤の類い。
癌細胞は悪性新生物である自分達と云う「種」の存続～増殖の為に、自身への栄養補給の為に、宿主である人間の遺伝子の意志や内臓器官秩序機構に関係なく、自ら勝手に血管機構を構築すると云う、誠に恐ろしいと云うかしたたかと云うかな悪知恵～荒業を成し遂げる。
(2017/08)
二、
現4thラインの副作用について、全般的には、吐気、胸焼け、食欲不振、倦怠感が通して挙げられる。
そして此の4thラインから加わった、手の爪が脆くなる現象は、鍵盤弾きとしては刻々と深刻度を増してきている。
ライブ演奏の度に指先の角にヒビが入り、血が滲む。
昨夜2017/09/10は右小指外側をやられ、一晩明けた今でも痛むし、見た目から痛々しい欠け方だ。他の指も爪ではないが、指の爪先が痛む。
普段から、何気ない動作で爪先が沿ってヒビが入り、どんどん深爪に為ってきているから、指先の痛みも当然だろうが、ピアノ弾きにとっては先が思いやられる。
ハスキーボイス現象が此れ又、最早、普通の声になってしまっている感じだ。
好いブルースでも歌えるように為るかも知れない。
そして徐々に加わってきたのが、軽い鼻血。
しかも左だけと云うのが先生もよく分からないが有り得ると仰っていたし、排便時に軽い出血も伴うことが出てきた。ザルトラップの副作用だと思われる。
三、
「逆襲」…外来化学療法4thライン2クール目の経過#2
4-6日目：2017/09/01金-03日続き
前クールでは5日目に発現した下痢が、今クールでは6日目。
非常に苦しめられ体力も消耗し、外出予定を目の前にして、市販腹薬を服用して少し休んだところ完全に治まり、栄養ドリンクで体力を取り戻し活動再開…副作用が抜けるまで、6日も掛かった…
と云うのが前回記録の最後だが、翌日以降に、恐るべき逆襲が待ち構えていたのだった。
7-8日目：2017/09/04月-05火
・6日目日曜に市販腹薬で治した下痢、此れで完全復調：副作用から抜けた…と思いきや、翌日月曜、夕刻、便意を催し何の気なしに普通に厠に赴いたところ、下痢が排出され、此の逆襲に冷や汗が出る程に驚き、恐れ慄かされた。
その後も、苦痛は伴わないものの、幾度か下痢排出が続き、副作用の下痢は、市販腹薬で強制的に抑えられていただけだった事を思い知らされる。7日経っても副作用から脱せられないのである。
・7日目火曜の、クール1週間経過の定例検査通院。
白血球は毎度ながら全く同じ下降状態。下限値：3900が▲1000の2900。
鼻血、排便時の出血の報告を済ませ、先述の下痢現象の相談をした。
使用した市販薬は赤玉の類（商品名：赤丸）。
正露丸系の殺菌効果ではなく、腸の動きを抑制する効果で下痢に作用する類い。身体に合っているのか、経験上、わたしの場合はてきめんに効き、効果が現れ治まる時間も非常に早い。
「ん～、今回は後ろに一日ズレたんですね。そして其の赤玉とやらで治っていたものが、翌日：昨日には再び下痢に為ってしまったと。其れで、今日のところは又治まったんですね？」
仰る通りだが、実際問題どんな感じなのだろうか。
「下痢と云うのは、
- ”体外に出さなければならない物質が有って起こるもの”と、
- ”腸自体が傷んで機能不全に為り起こる場合”と、
此れ等、2通りの原因がある訳なんですが、実は此の場合は”両方”なので、止めてはいけない（！）ものなんですね」
抗癌剤を肝臓で代謝された物質が数日後＝クール開始の投与日から代謝期間を経て遅れて、腸に排出され、其れが有害物質で腸を荒らすので、消化不良と為り下痢を起こす…と云うのが、前々：2ndラインでも経験したフォルフィリ療法に含まれるイリノテカンの副作用だったのだが、今回4thラインは新薬：ザルトラップとの組み合わせなので、更に其の影響も加わっているのだろう。
ザルトラップに因る副作用としては、目立ったものでは鼻血～痔などの出血、下痢が発現する可能性があるらしい。（1クール目の記録より）
全てが発現し出した。
そして要するに、ザルトラップとイリノテカン＝遅延時間差攻撃下痢爆弾を2つも抱えている事に為り、しかも、腸を荒らすだけではなく、有害物質だから、身体はとにかく体外に排出する様に、猛烈に働く訳だ。人間の遺伝子機能的には、正常細胞達は、兎に角、異物排出に向かう。
遺伝子の意志は、貴く、そして尊い。
しかしだ。
今後も週末：土日の多忙は続くし（私の場合は週末に全てが集中する繁忙パターン）、今週末に至っては、近所の親戚一同で北国の実家の大きな法事と行事に前夜向かう乗り物が「車！」（しかも途中で運転も替わる！）、其の上、法事～行事の翌日は朝から新幹線で東京に戻り、午后からゲネプロ1本、ライブ2本の現場が入っていると云う、殺人的スケジュールの為、今回の”金土日”は本当に如何にかしなければいけない。
体力の消耗も心配だ。ん～、本当に自分は病人なんだろうか（と半分苦笑いせざるを得ない）。
9月三週目末の車での集団移動計画は、今4thライン開始の8月中に立てたものだが、今回の2クール目、しかもこの9月の段階に為って、遅延下痢現象のこんな重力が明らかになるとは、全く予測が出来なかった。見えないブラックホールだった。
ザルトラップ、恐るべし。正に笊罠、猿罠。
罠に掛かった猿にでも為った気分である。
先生、如何にか為らないのだろうか？
テキメンに効く処方薬はないのだろうか？
しかし、先生曰く、
「ん～、先程申し上げた通りですので、普段飲みの整腸剤ですが、ビオフェルミンを頓服薬としてお出しする事しか出来ませんね～。其の度に何度か飲んでも、大丈夫な薬ですから、下痢に為ったら飲み続けて下さいね」
ん～、泣ける。救われない。笊罠のザルに掬われなかった様でもある。
ローリングストーンズの60年代の曲に「ワットゥドゥー？」というのがあるが、出だしから此の問いかけで始まり、其の次の歌詞が、「イェイ、アイ・リリィ・ドンノゥ」で、嗚呼、全く其の通りである。
9日目：2017/09/06水
夜、ピアノの稽古後、近所の親戚の姉貴分と合流。
二人で杯を傾けながら、車での北国帰省の相談をする。
密談ではないが、内容が内容なだけに、シリアスな密談の様相を呈している。此処で壇蜜が相手だったら、こんな密談はとてもではないが出来ないが、でも、ちょっと嬉しいかも知れない。
- おむつを買う。
- 時間ロスに為っても長い道中、PA間時間距離は然程でもない筈だから、都度都度、休憩に寄る。
- 最悪、何処か大きな駅に近くで高速を降り、私だけ降ろして夜中に無理やり宿を取り、厠の近い環境で休み、早朝、新幹線で向かう。
楽しい一族の法事行事旅行を私の病では台無しにしたくない。
生きているからこそ、皆、血縁同士の親愛の念を、絆を深めたい。
音楽も同じで、生きているからこそ、音楽的成果を実感し合い、互いのパフォーマンスを直に感じ合って、絆と充実感を、満足感を深く共有したい。
其処で、私が考えたのは禁じ手だが、最後の切り札は、「赤玉」で下痢を止める…その後はもう、成り行き任せで過密スケジュールの日曜夜まで乗り切る。体力が消耗したら栄養ドリンクで乗り切る。
と云うか、もう、此れしか無いような気がする…。
仕事が云々ではない、此れが自分の人生の意志だ。
10-11日目：2017/09/07木-08金
「戦慄の逆襲…連続攻撃」
・姉貴分と解散した木曜夜、自宅ピアノのメンテ。
ぐじゃぐじゃに狂いまくった調律は愚か、完全にハンマーが何本もイカれてしまった、我が愛器（？）の超オールドなピアノをメンテナンスして頂く。
私のピアノの壊れ方や調整の狂い方、ハンマーの摩耗度は、やはり、通常の御宅のピアノとは全く異なるほど強烈で特殊なものだと仰る。
この調律師の御方とは長年のお付き合いで、最近では、と或る調律師主人公の漫画（そんな漫画があったのか！？と云った感じだが、坂本龍一さんが絶賛しているほど濃密で深い内容らしい）の監修も担当されているそうだ。
そんな凄腕職人の御方、私がベース奏者のいない編成で歌の伴奏をする演奏が非常に多い事をよくご存知なのだが、それでも毎回毎回、うちのピアノの状態には吃驚される。
歌にぶつからない和音伴奏をする右手は勿論中域。左手はベース奏者がいない状態だからいつもオクターブ奏法でガンガン弾くし、16ビート等のリズミックなノリのよい曲を演奏する場合、親指はチョッパーベース奏法の如く、8部音符の裏拍を強調して叩きつけるから、其の音域が傷むし狂うし弦も切り易い。
中低域のハンマーの摩耗が異常に激しく、普段どれだけ弾いてるのかと云うことが窺えるとの旨。しかも状態が並大抵ではないと仰る。壊れたハンマーも全て中低域だ。普通、こんな壊れ方はしないそうだ。
弦を切るにしても、クラシックピアノの御宅だと、10割方、細い高音弦なのだそうだが、私が切るのは低音の強靭な太い巻き弦の方。
…と、そんな、崩壊状態から、うっとりした響きに修理～調整～調律して頂いたピアノは、夢見心地の如く鳴り響き、で、其の晩はそのまま非常にうっとりと飲んでは弾きながら、酔っ払って寝床に就いた。
ところがである。
時間は分からぬが未だ真っ暗な中に、便意で目覚めさせられたのだ。
何だよ、うっとり寝ているのに…と厠へ赴けば、コロコロっとした便秘状のものしか出ない。此れが2回続き、
「…？、便秘頻便の始まり？何で1週間以上経った今頃？」
と思っている中に、三回目に強烈なものが押し寄せてきたのだ。
吃驚して大慌てで寝床から脱出したところで、此れが漏洩事件を起こし始めた。
パニック状態で気ばかり焦るが、漏洩中だから急げない。止まらない。嗚呼…。
こんな葛藤と混沌の中、何とか厠に辿り着いたのだが、下着をかなり汚したばかりか、降ろして便座に傾れ込んだ拍子に、脚に漏洩物質が擦り着くほどの量だった。
此れには本当に驚いた。
変なものを食った記憶は全く無いし、クール開始から10日も経って、直近まる三日間が丸っきり通常だった此のタイミングで、全く突如として肛門括約筋のコントロールすら不可能な程の強烈な逆襲を喰らったのである。
早速、処方薬のビオフェルミンを飲む羽目になるとは。
・そして翌日金曜。
ビオフェルミンが何処まで効いたのだか如何だか分からぬが、治まった状態で、夜、打ち合わせ兼ライブ鑑賞で出掛けた帰りである。体調も良好だ。
二人でワイン三本も空けてしまったものだから、相当に酔っ払ってはいたのだが、普通に終電前に最寄り駅まで着いて、普通に便意を催したので、駅の厠へ向かった時の事である。
ノリ的には、「帰りに脱糞でもしておくか」…と、其の程度だった。
其れが突然、又押し寄せてきたのだ、強烈に。…！！！
文字通り個室に駆け込むが、其の最中に又もや漏洩事件を起こしてしまった。
ホッと一息つき、厠に腰掛け、下着を見下ろし落胆する。
量的には大した事はなかったが、抑制の全く効かない押し寄せ方は、正に奇襲攻撃としか言い様が無い。もう、酔いも冷めてしまった。
抗癌剤に攻められた癌細胞の逆襲か？
トラ・トラ・トラ（ワレ奇襲ニ成功セリ。）…そんな事すらふと脳裏を過ぎってしまった。
さて置き、きちんと拭き取り、そのまま履き直して帰宅し風呂を浴びてサッパリして寝たのだが、厠で下着のオモテウラにトイレットペーパーを挟む処理を怠った酔っ払いは、翌日、脱ぎ捨ててあったジーンズの匂いを嗅ぎ、其れが災いしたことを知り、ゲンナリしたのだった。
12-14日目：2017/09/09土-11月
「安寧の酒とブルースの日々」
その後三日間は、ブルースセッションで前後ハシゴし過ぎて二日酔いに為ったり、其の二日酔いのまま、一日でリハーサル1件とライブイベントの突貫直前リハーサル1件、所属ユニットの本番ライブとぶっつけ本番を含む10曲近くのブルースピアノのサポート演奏本番と云う疲れ果てた一日を過ごしたりして、ようやく14日目（＝2週間のクール最終日）を迎えたが、下痢の「下」の字も出ず、体調的にも二日酔いを除けば全然良好な日々を過ごした。
一番いい頃合いだ、2週間1クールの抗癌剤生活者にとっては。
今頃の秋の入りが過ごしやすい感じが、二週間に一度、訪れる。
日本て、四季があっていいですね。幸せに思います。
しかし今回。
思い返すのは、6日目：日曜の初回遅延攻撃と、10日目木曜からの2日連続の超遅延なる逆襲。
初回は、1クール目でも同様だが、7時間以上も前から「便秘頻便」（＝造語で、無便orコロコロ少量の頻便便意）から始まる。便意が止まらないのに出ない苦しみは、
「アイキャントストップ！」
という歌謡曲の一節を思い出させられる。そして本格的下痢やら頻便やらが始まる。
そして、逆襲襲来時も同様、「アイキャントストップ！、the漏洩～」
嗚呼、悲しくなってきた。
明日から3クール目が始まる。
二日酔いと副作用は、似ているようでいて全く似ていないが、やはり副作用、今クールは特に恐怖だ。コンクールに稽古無しで出るほど恐ろしい。
遅延下痢現象と云う副作用…副作用は英語で「side effect」、遅延は「delay」。
ミュージシャン的には、音楽エフェクター（音響用装置）の「ディレイ・エフェクト(エコー＝こだま効果：世に云うエコー効果装置は此の遅延発音を連続させるのが原理)」を連想させられ、更にガッカリである。
云う為れば、だから、「ディレイド・サイドエフェクト」と云った感じか？
横文字にすれば格好イイが、要は下痢だから様にならない。ホント様にならない。
そしていつ人前でやらかすか未知に満ち溢れた、みっちゃんみちみち…要はクソッタレ：漏洩事件張本人だもんなぁ。
でも中身までクソッタレに為らないように、謙虚に優しく、其れでも好きな事を思う存分精一杯やって生きてゆこう。
様にならない、か…。森進一×大滝詠一の名曲の一説が頭を過る。
「革のコートのボタン一つ 取れかけて 様にならない」
（「冬のリヴィエラ」の2番のCメロ）
こっちはかっこいいよなぁ（笑）
旬の秋刀魚焼きと鰹刺しの盛り合わせ。こんな嬉しい肴もない。