Beyond Despair -45ページ目

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

「アンタ、無理してないでしょうね?」

急にこんな事を言い出した俺を変に思ったのか、火野川は心配そうな表情で呟いた。

まぁ、昨日の夜も朝も、あんな態度じゃ心配されても仕方ないけどな。

俺は火野川にグッ! と親指を立てる。

「無理はしてない、けどこれが今の俺に出来る元気なんだ。もし前の俺よりも元気に見えないんなら、そこらへんは勘弁してくれよ~?」

俺がそう言うと火野川はクスと笑った。

そして俺に拳を向けてきた。

「そうね、まぁアンタの事だし、気づかない内に今までの元気、取り戻してそうだけど」

俺も拳を握ると、火野川の拳に合わせる。

「その期待に答えられる様に、努力するよ」

うん、と火野川は頷く。

そして互いに合わせていた拳を引いた。

そんな俺達を見つめていた坂口がノソノソと近づいて来る。

「それでヒノッチ、行くんですかい?」

「ん? 当たり前でしょ。息抜きしたいのは護だけじゃないしね」

火野川はくるりと百八十度回転すると、鞄を持ったままエントランスの出口へ向かう。

「んて、ちゃっと待てよ火野川ッ! 行くってどこに行くんだ?」

しかし火野川は振り返りもせず、一人先に寮を出ていった。

その後に続いて坂口、龍二も寮から出ていく。

俺は残ったエレナに顔を向けた。

「なぁ、行くってどこに行くんだよ?」

「勿論、ナイトタウンですよッ!」

そう言うとエレナはルンルンとスキップしながらエントランスの出口へと向かって行った。

ナイトタウン、エリア全体が巨大ドームで覆われている変わったエリアだ。

しかもナイト、とつくくらいその街は一日中夜なんだよな。

しかし、気分転換に何故ナイトタウンなんだ……。

「火野川の事は、やっぱり分かんねーなー」

そんな愚痴をこぼしながら俺は明子さんにおむず日の礼を言うと、そのままエントランスの出口へと向かった。



/続く



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「ホントの事言うとですね、護さんが元気無いから、私達四人どうすれば良いのかと、授業中にずっと考えていたんですよ」

「そう、それで気分転換もかねて、どっかに連れ出そうって話になった訳よ」

長い髪をサラっと靡かせながら火野川はそう言った。

こう言う時、なんて言えばいいのだろう。

正直言葉が見つからない。

でも、それでも、コイツら皆……俺の事をこんなにも気にしていたんだと思うと、自分が情けなく思えてくる。

不安なのは俺だけじゃない、皆だってきっと表には出さないけど、不安で仕方ない筈なんだ。

なのに俺は、自分だけが一番不安や恐怖を感じているんだと、無意識に思っていた。

でも、それはただの俺の思い過ごしだったんだ。

別の世界に来た感覚? 当たり前だった日常が変わった?

俺はつい鼻で笑ってしまう。

「ちょっと、何よその笑い方? バカにしてるの」

「あぁ、違うよ。お前らを笑ったんじゃない。笑ったのは――」

俺は自分の胸に右手を当てる。

ドクンドクンと、心臓の鼓動音。

「俺自身に対してだよ」

世界が変わった、日常が変わった。

そんなのは俺だけじゃなくて、皆が同じ事なんだ。

俺は椅子から腰を上げる。

そして思いっきり、自分の頬をバシンと叩いた。

「ホント、エレナの言う通りだよな」

「え、あ、あの……」

「笑ってない俺は俺じゃないッ! そう言ったろ?」

エレナの頭を軽く撫でながら言う。



/続く



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「あぁ……ハハ、笑うって……実は難しいんだな」

エレナに顔を向けながら俺はそう言った。

「でも、今の護さんは自然に笑えてましたよ? 私から言わせれば、笑ってない護さんは護さんじゃないと思いますッ!」

胸を貼りながらエレナは俺にそう言った。

いつの間にか、俺=笑い、と言うふうになっていたらしい。

俺は苦笑しながらエレナを見つめる。

と、彼女は俺の前まで来ると、俺の両手に自分の両手を重ねてきた。

「え、エレナ……?」

顔が赤くなるのが分かる。

するとエレナは両目を閉じて、うん、と頷いた。

「護さん、昨日は本当に大変でしたよね。護さんの心には、きっと私達には想像も出来ない傷が付いてしまったんですよね。だから――」

彼女は閉じていた両目をパッチリ開く。

そしていつもの、太陽の様なスマイル顔で――。

「今は、アナタに出来る限りの元気でいてくださいッ! そうすればきっと、本当に元気になれちゃいますからッ!」

何故だろうか、彼女のその言葉は。

今の俺にとっては、とても……救いの言葉だった。

目がじんとする感覚、涙が出そうになっているのだろうか。

俺は顔を下に向けて、出そうになる涙を必死に堪える。

暖かい、安心する、エレナの言葉。

「……ありがと」

涙声で、俺はエレナに顔を下に向けたままお礼を言った。

両手から温もりが無くなる。

エレナはそっと、自分の両手を引いた。

俺は涙を拭うと、顔を上げる。

そこにはさっきとは変わらず、スマイル顔のエレナの姿があった。

「さてと」

するとエレナの後ろから龍二の説教を終えた火野川が俺に近づいてきた。

「ねぇ護、私達これから気分転換に遊びに行くんだけど、アンタも行かない?」

「え、いや……俺、まだそんな気分じゃ――」

俺がそう言うと火野川は深くため息をつく。

「前言撤回、アンタは強制参加よッ!」

「き、強制参加ッ!? 何でそんなッ!」

「まぁ~まぁ~護さん」

火野川の発言に反論しようとする俺の肩をエレナがポンポンと叩いた。



/続く



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