僕がこの高校に入ったのには理由がある。
中学校の時に初めてツアーレコードに入った5月、少しクーラーを利かせたひんやりとした店内に、BGMでうるさいギターの音がわなないていた。その時僕は一人で入ったのだが、あまりのうるささに腹にパンチを受けていたような気分になっていた。
ともあれ、ここは色んな意味で刺激が多い場所だなと感じたのは、僕の気のせいではなかっただろう。
世界中の音楽に洋書、多種多様なファッション、カルチャー誌や写真集、映画。
僕の見ていた世界と少し違っていたものが、そこにはあった。
色んなものに刺激を受け、頭がくらくらしていた時、店内のアナウンス放送が鳴り響いた。
「16:30より店内ライブを始めます、もしお暇な方がいたら5Fのライブコーナーまで是非遊びに来て下さい」
ライブか。
そんなものには当然行ったこともなく、門限もあり興味のないふりをしていた。だがもう僕は中学3年生。少しどんなものかと背伸びをして行ってみた。
人が少し集まってきた。僕と同じか少し上かぐらいの人たちがなんでかみんな変なグラフィックをしたTシャツを着ていて、音楽の話で盛り上がっている。
「あのバンドの新しいアルバム聴いたー?」
「あの2NDの3つ目のトラックがさあ」
みんな何を言っているんだろう。
別の緊張が僕に襲いかかる。初めてという緊張。知るという緊張。
いつのまにか時間になって、急に周りが騒ぎだした。
ぬるっと扉から出てきたのは、ギターを抱えた華奢な女の子と、もう一人ギターを抱えた男の子、小太鼓とシンバルを持ってきた女の子だった。どれも僕と同世代か少し上か。どちらにせよ、このフロアはティーンエイジャーでわんさかあふれていた。
軽く会釈をしてはにかみながら、その女の子達は用意されていた椅子に座り、すぅっと深呼吸をして、指をギターの糸のところに押さえつけ、優しくかきならす。
その優しい緊張はみんなにも伝わり、その女の子が歌うのを待つ。
「こんにちは、Aquaです。聴きにきてくれてありがとう。みんなも音楽、好きですか?良かったら、私たちの歌を聴いてすこしでも優しい気持ちになってって下さい。」
「青空」
青い澄んだ空の色を絵の具でどう表せるだろう
絵なんてそんな描かないけど
今日見た青いそらを瞼に入れるには綺麗すぎて
何かに残したくて
おんなじ空を見ている人がどれくらいいるだろう
おんなじ気持ちになっている人がどれぐらいいるだろう
おんなじ空を見せてあげれば楽しいだろう
でも空を作るには少し目の色が足りなくて
次もし一緒に見れる人がいたら見せてあげれるかな
優しくなれるかな
あの日みた空が私たちの心を繋げられるなら
何度だって
あの色を探そう
「ありがとう」
綺麗なアコースティックギターとエレキギターの相性がよくて
小太鼓とシンバルのリズムが優しくて
気付いたら僕は泣いていた。
こんな音があったなんて。
知りたくなった。もっと聴きたくなった。
彼女は目が大きくてすこしたれ目だった。やさしくはにかむと少し垂れた目がとても可愛かった。
髪はもしゃもしゃしてて、少し癖のあるうねったミドルヘアー。
ライブが終わって僕は気付かないうちにその女の子に近づいた。
「あ、あの!!」
「ん、なーに?」
「歌、すごくステキでした。ありがとうございました。」
「生まれて初めてギターが格好良くみえました。」
などと口が勝手に動くさなか、
「いやあ、ありがとうねえ。でもちょっとここで喋るには喋りすぎだね。」
「君、2中の生徒でしょ。わたしも2中だったからすぐ見えたよ。」
「学校行こうか、楽器も置きたいし」
なぜか僕は3人と2中に行った。もう門限なのに・・・でも、まだこの人たちといたいな。こんな気持ち初めてだ。
色んなことを聞いた。バンドのこと、音楽のこと、ギターのこと、先輩のこと。
いつの間にか時間は経ち、親から電話が鳴り響いていた。帰ったらビンタだな・・・そんなことを言っていると、その女の子にゲラゲラ笑われた。ちくしょう。
「君、面白いね。良かったらメアド交換しようよ。オナチューのよしみだしさ。」
そういうと彼女はメアドと番号をさらさら書いて、僕に渡した。
「ライブとか音楽とか興味出たら連絡ちょうだいね。音楽楽しいよ~。」
おっとりした口調で彼女はこう言った。
「バンドAquaのギターヴォーカル、宮野 優です。君の1こ上だね。今は高瀬高校にいるよ。よろしく~。」
ただ天然なのか、それとも何かをしたいのか、僕には分らなかった。ただひとつだけ思ったことは、このライブに参加できてよかったってことと、もう一度この人の声が聞きたいと思ったこと。
この不思議なドキドキが、僕の1年をかえていった。
僕はなぜか高瀬高校に行こうと決めた。
続く?