風ふけば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ

 

             題知らず

             (注釈抄) この女、この男、かれやうにのみなりゆきけり

          よみひと知らず 古今和歌集 巻第十八 雑歌下 (994)

 

 

この夜半、漆黒の山中を、きみは歩んでゆく、── 山の彼方にあるものを、求めながら。

 

夜半に風が吹けば、黒い海原に、波の白い姿が湧き上がる。

きみの思いがあの白波のようであるなら、道がたとえ漆黒の山中にあっても、歩み進んでゆけるのだろう。

 

 

 

 

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女性の歌だが、抽象化、普遍化したく、ここでは女性的な文体を使わなかった。

正解は「夜の山道を越えて女に会いに行くあの人を思えば、私の心の中には波がざわめき立つ」ということなのだろうとは思うのだが、電気もない時代の夜の山道とは、どのようなものだったろうか。

遊び半分で歩けるようなものではなく、圧倒的な恐怖が支配していたはずだと思う。

ここでは波の”白”と夜闇の”黒”の対比を考えた。