人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける

 

             初瀬にまうづるごとやどりける人の家に久しくやどらでに

             程へてのちにいたれりければ

             かの家の主かくさだかにやどりなんあると言ひだして侍りければ

             そこにたてりける梅の花を折りてよめる

 

           つらゆき 古今和歌集 巻第一 春歌上 (42)

 

 

よく知るこの地にも、春がめぐってきた。

人は、── よく知る人であっても、その想いは、── 季節の境界をこえて、なお変わることなくあるのだろうか。

 

懐しい地に、梅の花が咲きはじめている。── 変わらないという約束を、果たしにきたかのように。

春風が、梅からのふみを届ける、── 花の香というふみを、また今年も。