春といへば霞にけりな昨日まで波間に見えし淡路島山

 

              俊恵法師  新古今和歌集 巻第六 春歌上 (6)

 

 

浜辺に立てば、あたたかな春風が潮騒を運んでくる。── 立春が過ぎた。

 

うねり、止まることのない海原、── あの冬風吹く冷えた日々に、島山は揺らぐことなく、威儀を正していたのだが。

 

いま、暖をまとう春霞のかなたに、その姿はあいまいなものになってゆく。

約束された高まりの中、── ほほ笑みながら、目を閉じているかのように。