ひぐらしの鳴きつるなへに日はくれぬと思ふは山のかげにぞありける

 

                   題しらず

                                 よみ人しらず 古今和歌集 巻第四 秋歌上 (204)

 

 

秋の風が吹き始めた。この季節、道に沿って茂ってきた野草は、もうこれ以上、この道を覆い隠そうとはしない。

残された花々は、いまは静かにうつむき、── 秋の野に、日は暮れてゆくのか。

 

ひぐらしの声が、山々から静かな波のように寄せている、── 北の果ての、神話の国にひろがる蒼く深い湖の、水面のざわめきであるかのように。

── 日はまだ残っている、稜線のかなたに、── ここからでは見えないだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Cantique de Jean Racine, Op. 11