今回アップロードしたのは、マウリツィオ・ポリーニによるショパンのエチュード第一番だ。音源はLPレコードからのもので、1972年に録音された。

ポリーニの演奏によるショパンのエチュードは、過去にも終曲をアップロードしたことがある。(本記事の末尾に貼り付け)

今回ご紹介する作品はエチュードの最初の曲だから、最初と最後がそろったことになる。いや、意図したわけではないが。

 

この第一番は、ショパンのエチュード中でも特に華麗な展開を見せてくれる作品だが、基本的にはそんな華麗さを支えている低音部に特徴があると思う。

この作品を聴くときは、いつも低音部に意識を向けてしまう。なんというか、絢爛たる幻想世界を歩む、「人の足取り、そのもの」を感じてしまうのだ。

そうして、歩む周囲には、数知れない妖精たちが光りながら群舞しているのだ。

 

 

エチュードの名演奏は数多いが、ポリーニによるこの演奏は屈指の存在と言える。

夾雑物が排除され、極限まで磨き抜かれた一音一音は、まるでダイヤモンドのように硬く輝き、爆発的に表出するのだ。

 

この後の世代の演奏スタイルは、ポリーニが至った世界のさらに先に向かうというよりも、方向を変えていったと思う。

緻密で繊細、かつ冷静で明晰な、どちらかというと無機質的な美しさを感じさせる演奏スタイルへと移行していったと感じる。

つまり、ポリーニのこの演奏は、唯一無比のものと言えると思うのだ。

 

 

最初に聴いたとき、ともかく凄い演奏だと思った。

しかし凄いと思うのと、好みの感覚は別物だ。個人的には、凄いという印象ばかりが強かったように思う。

それが変わったのは、2008年から2009年にかけて録音された、バッハの「平均律クラヴィア曲集第一巻」を聴いたときだった。

彼はメロディを口ずさみながら演奏していた。それが意外だった。

 

演奏中に声を出すのは、たとえばグレン・グールドやキース・ジャレットなどが知られているが、彼らの場合、その声には演奏への没入における陶酔感が感じられる。

しかし、ポリーニの声に感じたのは、無彩色の喪失感や絶望感だった。聴いていて、何度も息を呑まされた。

演奏面での凄いというだけの印象が一変した。ポリーニという人は、彼の至った地平の先を、どれほどまでに見せてくれる演奏家なのだろうかと思う。

 

 

 

 

Maurizio Pollini / Frédéric Chopin "Etude Op.10 No.1 in C major

- [ Vinyl record ] ポリーニ -ショパン -エチュード

 

 

こちらは、ポリーニによるエチュード集の終曲だ。数あるピアノ曲の中でも、きわめて好きな曲のうちの一つだ。

 

 

Maurizio Pollini / Frédéric Chopin "Etude Op.25 No.12 in C minor

- The Ocean" - [ Vinyl record ]