昔見し春は昔の春ながらわが身ひとつのあらずもあるかな
題しらず
清原深養父 新古今和歌集 巻第十六 雑歌上 (1449)
春風は木々を、そうしてこの身を吹き抜け、── 花々の香は大気を彩ってゆく。
遠き日々に見ていた春は、いまも変わることはなく、── いつでも、優し気にほほえみかけている。
止まることなく遷りゆく季節は、めぐり来ればまた、同じ歌をうたってくれるのだが、
── 遠き日々も、そうしていまも、この身は同じであるはずなのに、もう同じ歌をうたうことができない。
── 別のものに変わってゆくのか。
遠き日々も、そうしていまも、── 時の流れの中、果てのない旅は続き、この身が変わらずにあることは、できはしないのだろう。